- 著者
-
細馬 宏通
- 出版者
- 社会言語科学会
- 雑誌
- 社会言語科学 (ISSN:13443909)
- 巻号頁・発行日
- vol.25, no.1, pp.55-69, 2022-09-30 (Released:2022-10-19)
- 参考文献数
- 25
- 被引用文献数
-
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コロナ禍によって,仕事のツールとして在宅勤務でのオンライン・ミーティングが導入されることが増えてきた.こうしたミーティングでは,仕事中に子どもが参入する事態が起こりうる.仕事と子育てが葛藤を起こすこのような状況で,子どもはどのように大人が自明としている世界に参与することができるだろうか.本研究では,BBCニュースのインタビューでインタビュイーの子どもが入り込んだ事例を発話,視線変化,身体動作に注目して詳細に分析し,この問題を検討した.事後の報道では子どもの発話と行動の一部が切り取られ,子どもはあたかも大人のルールに「侵入」したかのように扱われていた.しかし,分析の結果,子どもは単に仕事中の母親とのコミュニケーションを一方的に求めるのではなく,母親と司会者の行動をもとに,その場で為しうる行動は何かを読み解き,発話・視線・動作のタイミングを調整していることがわかった.また,子どもは司会者による名前を用いた呼びかけの形式を資源として用い,その形式に沿った発話連鎖を組織化することで,コミュニケーションを維持していた.子どもは,報道とは異なり,限られた手がかりをもとに相互行為に主体的に参与し,大人が自明視しているルールを明らかにする存在であることが明らかになった.