- 著者
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張 軍宏
平野 真
劉 鳳
劉 培謙
- 出版者
- 国際ビジネス研究学会
- 雑誌
- 国際ビジネス研究学会年報 (ISSN:13480464)
- 巻号頁・発行日
- no.13, pp.141-150, 2007-09-30
本研究は、中国の大学発ベンチャーの現状とその中で芽生えつつある成長への変容を、上海の同済大学科技園(サイエンスパーク)の上海同済同捷科技有限会社を主な対象事例として調査し分析考察したものである。同済大学科技園の場合、政府の奨励と財政的支援などにより、すでに数多くの大学発ベンチャーを設立するに至っているが、その多くは、大学教授の研究の延長上にあるもので、本格的な事業へと成長しているものは数えるほどしかない。その数少ない成長企業のひとつとして、雷雨成を経営者とする自動車設計会社、上海同済同捷科技有限会社がある。本研究では、この上海同済同捷科技有限会社の成功要因を、企業の外部要因としての技術・市場・競合の視点から、また内部要因としての人材・組織の視点から、分析・考察を行った。その結果、外部要因としては、1) CADなど形式知化した既存技術のパッケージを有効に活用し、2) 開拓期の自動車市場の興隆に照準を合わせてタイミングよく事業拡大を図り、3) かつ初期に蓄積された財務資産を手際よく活用してWTO加盟以降の競争激化に対して、最も効率的な外部人材移入による暗黙知吸収を図り、企業経営力強化とブランド力など競争優位性の獲得をタイミングよく図った。また内部要因としては、1) 通常の研究本位の大学教授ではなく、起業家精神に溢れた技術者が中核となり、2) 早い時期の起業と失敗により経営ノウハウを獲得し、これを基礎に第二の起業によって事業化に成功した。3) 市場性重視の視点から「市場部」の設置を早くから行い、受託業務を逆手にとって市場ニーズの把握に努めた。4) 人材と組織力の強化のため、社内教育の充実や外部人材の登用により、効率よく企業の競争力強化を実現した。といった諸点が挙げられる。こうした成功事例を、その他の大半のあまり飛躍的発展の見られない大学発ベンチャーと比較することにより、今後の中国における大学発ベンチャーの成長と飛躍を促すために、有効なベンチャー経営手法と大学科技園の支援策について考察を行った。また、あわせて調査した内陸部成都の大学関連ベンチャーについても若干の報告を行い、中国全体における大学発ベンチャーの変容と成長についての知見とした。