著者
力久 昌幸
出版者
同志社大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究は,イギリスのEU国民投票を主な事例として取り上げて,イングランド・ナショナリズムの政治化によってEU離脱派のキャンペーンにどのような特色がもたらされたのか,そして,EU離脱決定後のイギリスの政党政治において主要政党の戦略的行動にどのような変化がもたらされたのか,という点について明らかにすることを目的としている。平成29年度の研究においては,本研究にとって重要な位置を占める概念であるナショナリズム,ナショナル・アイデンティティ,欧州統合,権限移譲改革に関する理論・事例研究を取り扱った文献・論文を収集したうえで,その内容に関する分類・整理を行った。上記のような本研究に関連する文献の収集・整理に加えて,本年度はイギリスのロンドンとカーディフを訪問し,上院議員,下院議員,ウェールズ議会議員,そして,EU離脱問題に関わる運動団体に対して聞き取り調査を行った。こうした聞き取り調査を通じて,EU国民投票およびその後のEU離脱をめぐる政治過程とイングランド・ナショナリズムの政治化との関係について,一定程度理解を深めることができた。また,カーディフ訪問を通じて,イングランド・ナショナリズムの比較対象として,ウェールズ・ナショナリズムについて一定の知見を得たことは,本研究にとって重要な,多民族国家イギリスを構成する各ネイションの間の相互関係を理解するうえで意味があったものと思われる。なお,平成30年度にはスコットランドを訪問することを考えているが,それにより,イングランド・ナショナリズムとスコットランド・ナショナリズム,そして,平成29年度に聞き取り調査を行ったウェールズ・ナショナリズムの異同について,さらに理解を深めることができるものと期待される。