- 著者
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加井 久雄
- 出版者
- 新潟大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2014-04-01
本研究は,会計の機能を会計基準の国際的統合化の文脈で数理モデルを使って検討するものである。日本の金融庁は,2015年4月に『IFRS適用レポート』を公表した。このレポートは,IFRSを任意適用した日本企業を対象にしたアンケート調査の結果を紹介している。その中で興味深いのは,IFRSを任意適用した理由として最も多かったのは経営管理への貢献であり,財務報告の比較可能性を大きく上回った。このことはIFRSを任意適用する日本企業にも,経営管理体制はあまり変えないまま,財務報告の部分だけを変えている企業と,経営管理体制を根本的に組みなおしている企業あることを意味し,この差異をもたらす要因の解明が重要であると言える。本年度は,前年度に引き続き,IFRSを基礎とする多国籍企業全体の最適な経営管理体制について検討した。「企業集団内の統一会計基準の性質と組織構造」では,本源的な企業価値を生み出す活動を行う生産部門と業績評価や公表財務諸表の作成といった情報生産を行う会計部門の関係に焦点を当て,多国籍企業内で統一的に利用する会計基準(IFRS)の性質によって生産部門と会計部門の最適な距離がどのように変わるのかを明らかにした。また,「「企業集団内の統一的会計基準と会計部門の活動」では,生産部門と会計部門の距離を所与として,会計部門は,情報生産コストの削減活動と生産部門への助言活動の二つの活動を行うものとし,多国籍企業内で統一的に利用する会計基準(IFRS)の性質によって会計部門の二つ活動の最適な水準がどのように変わるのかを明らかにしている。これらの研究は,多国籍企業におけるシェアードサービスの利用についても理論的な視点を与えるものである。