著者
柿元 周一郎 小澤 徹 五十嵐 澄 得能 朝成 加来 聖司 関 信男
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.140, no.2, pp.85-92, 2012 (Released:2012-08-10)
参考文献数
49

ガバペンチン エナカルビル(レグナイト®錠)は,新規レストレスレッグス症候群(restless legs syndrome: RLS)治療薬として開発されたガバペンチンのプロドラッグである.本剤は,ガバペンチンと異なる経路で消化管より吸収され,生体内で速やかにガバペンチンに変換されるため,ガバペンチンで問題となる投与量の増加に伴うバイオアベイラベリティの低下がなく,経口投与時の血中濃度の個体差が小さくなるようにデザインされている.一方,RLSの発症メカニズムは十分に解明されていないが,その症状はむずむずとした脚の不快感や痛みといった異常感覚を伴っており,RLS患者では脊髄後角に入力する感覚神経線維からのシグナル伝達の亢進あるいは異常が起こっていることが示唆されている.このことから,本薬の活性本体であるガバペンチンは,脊髄後角において感覚神経終末に発現する電位依存性カルシウムチャネルα2δサブユニットに結合し,興奮性シナプス伝達を抑制することで,RLSの症状に対する治療効果を発揮すると考えられる.実際に,国内外の臨床試験において,本剤はガバペンチンに比べ優れた薬物動態特性を示し,また中等度から高度の特発性RLS患者の症状に対して優れた改善効果を示した.一方,副作用およびその発現率は,市販されているガバペンチン製剤で認められているものとほとんど変わらず,本剤の忍容性が確認された.以上より,カバペンチン エナカルビルはRLSの薬物治療において新たな選択肢になると期待される.
著者
高須 俊行 高倉 昭治 加来 聖司
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.145, no.1, pp.36-42, 2015 (Released:2015-01-10)
参考文献数
12

イプラグリフロジンL-プロリン(以下イプラグリフロジン,商品名:スーグラ®錠)は,選択的sodium/glucose co-transporter(Na+/グルコース共輸送体:SGLT)2阻害薬として2014年1月に国内で初めて承認された新しい糖尿病治療薬である.腎近位尿細管においてグルコースの再吸収を担う糖輸送体であるSGLT2を阻害し,血液中の過剰なグルコースを尿糖として体外に排泄することによって高血糖を是正する.イプラグリフロジンはヒトSGLT2強制発現細胞を用いた実験において,SGLT2に選択的な阻害作用を示すことが確認された.マウスおよびラットへ単回経口投与したところ用量依存的に尿糖排泄促進作用を示し,また2型糖尿病モデルマウスへ4週間反復経口投与したところ尿糖排泄促進作用に加え,血糖値およびヘモグロビンA1c(HbA1c)低下作用を示した.さらにメトホルミンまたはピオグリタゾンとの反復併用投与により各々の単独投与よりも強いHbA1c改善作用を示した.高脂肪食を負荷して惹起した肥満モデルラットにおいてイプラグリフロジンは体重増加抑制作用および脂肪量減少作用を示した.2型糖尿病患者を対象とした国内第Ⅲ相臨床試験において,イプラグリフロジンは2型糖尿病患者のHbA1cおよび空腹時血糖値を改善し,優れた有効性および安全性を示した.低血糖の発現率は,イプラグリフロジン群とプラセボ群で同程度であった.以上,非臨床薬理試験および臨床試験の結果から,イプラグリフロジンはSGLT2阻害というインスリン作用とは異なる作用機序により血糖降下作用を発現し,2型糖尿病に対して治療効果を示す薬剤であることが示された.選択的SGLT2阻害薬イプラグリフロジンは2型糖尿病患者におけるより質の高い血糖管理の実現に貢献できるものと期待される.