著者
加納 和彦
出版者
国立感染症研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

感染症発生動向調査(NESID)の全数把握対象疾患(87疾患)の届出データの可視化・分析システムの設計、開発、及び改良を行った。本可視化システムは、リアルタイムな感染症発生(報告)状況把握と異常検知、週報集計時点の報告数と今後の動向予測、過去の発生動向データとその関連情報が参照できる感染症情報ライブラリの機能を備えたシステムとして開発を進めた。具体的には、時・人・場所の観点からデータを容易に把握できるように工夫し、過去の平均的な増加率に基づく年間累積報告数の見積値を確認できるようにするとともに、感染症発生動向調査やその周辺制度に関連する様々な情報を紐づけて表示する機能を実装した。
著者
加納 和彦
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.58-63, 2018-01-15

はじめに わが国の感染症サーベイランスはNational Epidemiological Surveillance of Infectious Disease(NESID)と呼ばれる電子システムを介して行われている.「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(感染症法)に基づいて,感染症を診断した医療機関は所定の届出様式1)にしたがって保健所へ感染症の発生報告を行う.保健所は届出データをNESIDシステムに登録し,中央および地方の感染症情報センターは登録データの確認と集計,および情報の還元を行っている.1999年以降,感染症法に基づいて報告された全数把握対象疾患の症例報告数は,2016年までで51万件以上に達している(図1)2). 症例報告の個票データにはさまざまな項目があり,年齢・性別などの患者に関する情報や,診断した医療機関,診断日,推定感染地域のように全疾患に共通した項目の他,後天性免疫不全症候群の届出におけるAIDS診断の指標疾患や,麻しん・風しんにおける予防接種歴の情報など疾患固有の項目が含まれる.また,データ形式には選択肢から選ぶものや,推定感染源欄や備考欄のように自由にテキストを入力するものがある.これらの膨大で多様なデータが一元的にデータベースに登録されていることと,さらに近年はコンピューターによるデータ処理技術が向上していることから,収集されたデータを機械的に分析し,公衆衛生の向上に役立つ情報へと変換する手法・ツールの開発の必要性が増してきている. 本稿では,①届出の自由記述テキストデータを活用した解析の試み,②現在,開発中の感染症サーベイランスのための新しいツール,さらに③海外の進んだサーベイランスシステムや関連ツールについて述べる.