著者
三上 恭平 川崎 翼 白石 眞 加茂 力
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1070, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】パーキンソン病(PD)の体幹前屈(前屈)の姿勢異常(PA)は難治性で,病態背景も不明な点が多い。DohertyらはPDのPAの病態背景の一つに,姿勢の自覚に関わる固有感覚の統合異常を挙げているが,PAを呈するPD患者の姿勢の自覚についての報告は少ない。また近年PAには,前頭葉の機能低下との関連性も報告されている(Nocera JR, et al., 2010)。本研究では,1)前屈を呈するPD患者のPAの自覚の有無と修正の可否,2)前頭葉機能がPD患者の前屈と関係するかの2点を検討した。【方法】2014年6月から7月に当クリニックに来院したMini Mental State Examination(MMSE)24点以上のPD患者で,前屈の姿勢異常角度が10度以上の27名を対象とした(75.1±8.1歳。男性11名,女性16名)。前屈の自覚の評価は,立位で「前に曲がっていると感じるか」の問いに「感じる」を自覚あり,「感じない」を自覚なしとした。前屈の角度は静止立位および口頭で垂直位への修正を求めた修正立位の静止画を撮影しImage Jを用いて解析した。前頭葉機能評価にはFrontal Assessment Battery(FAB)を用い,川畑の分類に基づき12点をカットオフ値として低値群と高値群に分類した(川畑。2011)。PDの重症度分類にはHohen and Yahr(H-Y)Stageを用い,運動機能評価にはUnified Parkinson's diseases Rating Scale(UPDRS)PartIIIを用いた。統計解析は,前屈の自覚有り群,無し群およびFAB低値群と高値群の2群間における前屈角度,UPDRS Part III,H-Y Stage,MMSEの値の差を,対応のないt検定にかけて解析した。なお,統計分析の有意水準は全て5%とした。【結果】27例中17例が前屈を自覚し,自覚あり群(41.6±21.9度)では,自覚なし群(22.6±13度)より有意に前屈角度が大きかった(P=0.019)。自覚なし群の7例(70%)は,口頭指示による姿勢の修正が可能であった。FAB低値群は,高値群よりも体幹屈曲角度が有意に大きかった(P=0.04)。一方,FAB低値群と高値群の間でMMSE,H-Y Stage,UPDRS Part IIIに有意な違いはなかった。【結論】前屈の角度が高度であれば自覚はある。しかし,その角度が低い例では姿勢の修正が可能であるにも関わらず,前屈を自覚していないため修正できない。さらに体幹屈曲角度にはFABで示される前頭葉機能が一因として関わっている可能性があり,前屈姿勢の改善のためには,運動機能のみならず前頭葉機能を考慮したリハプログラムが必要である。