著者
長澤 明範 加藤 一一
出版者
東海大学
雑誌
東海大学紀要. 開発工学部 (ISSN:09177612)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.165-176, 1994-03-30
被引用文献数
3

赤外線サーモグラフィは体表温度分布の受動的検査法で,その医学的意義,安全性から見て極めて理想的な臨床検査法である。医用サーモグラフィでもっとも重要なことは,身体各部の温度分布を正確に比較することである。しかし,従来の面走査方式のサーモカメラではカメラに面した身体の1側面を平面視した熱画像しか撮影されないため,種々の問題があった。とくに臨床応用においては異なる対象面毎に複数の撮影を余儀なくされていた。そこで著者らは身体各面の熱画像を1回の操作で撮影することのできる新たな展開サーモグラフィ法を3種考案した。(1)3面サーモグラフィ(TAT):側面用の赤外反射鏡を用いて身体3側面の熱画像を同時に撮影する方法。(2)多面サーモグラフィ(MAT):身体を回転しながら高速サーモカメラで体表のリアルタイムサーモグラムを撮影,記録し,1回転後任意の対象面の熱画像をマルチ表示するほか,身体全周域の熱分布を回転面の実時間サーモグラム上で観察することのできる方法。(3)パノラミックサーモグラフィ(PT):身体を中心軸の回りに回転しながら,回転軸上の体表面をサーモカメラで線走査して,体表全域までの連続的な熱画像を撮影する方法。展開サーモグラフィ法は次のような利点がある。(1)身体各面の温度分布を同時に記録,観察,分析することができる。(2)身体全域の温度分布を連続的に記録,観察することができ,異常部の検出エラーがない(PT,MAT)。(3)PT法では面走査法に見られる測定対象の周辺部における温度低下の現象を伴なわず,すべての範囲で正確な測定値が得られるため,誤診の危険性がない。(4)PT法では像拡大に伴なって分解能が向上し,精査に利用できる。(5)本法は操作が簡単で,規格的検査ができる。以上のように,本法は従来のサーモグラフィ法の欠点を改善した画期的な技術で,診断学上(とくに癌の診断などに)大きな成果が期待される。