著者
高月 義照
出版者
東海大学
雑誌
東海大学紀要. 開発工学部 (ISSN:09177612)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.53-75, 2011-03-31

およそ半世紀前までは,多くの人々が文学作品や映画などからいろいろな知識を吸収したものであった.ところがマンガ文化の普及とともにそうした文芸に代わってマンガが若者たちの主要な情報源になってきた.その意味で,マンガが現代の文芸に成長しているのである.文芸になったばかりでなく,マンガ文化は,今や世界各地に輸出され,多くの人たちに読まれ,またマンガから派生したコンテンツとともに「MANGA」は今や世界共通語となっている. このように,マンガが文芸へと成長し,世界に誇る日本を代表する文化の一つにまでなりえた秘密はどこにあるのか.その秘密の鍵はどこにあるのか,それを明らかにするのが本論文の目的である. その秘密を解く最大の鍵は,マンガにおける表現技法の進化にある.つまり,この半世紀の間に表現技法の上で様々な工夫が加えられ,進化を遂げてきたことによって,それまで子供の娯楽の対象でしかなかったマンガが大人の鑑賞と読書に十二分に値する文芸に成長してきたというのが私の考えである. それを論証するために,マンガの構成要素である「絵」と「文」と「記号(オノマトペ)」の3 つのそれぞれの表現技法にどのような進化があったのかを明らかにする. 「絵」については,イメージ重視の繊細な描写と精密な描写の進化があり,それに「コマ割り」の多様化によって心理描写が可能となった.また「文」についても「吹き出し」のパターン化と相俟って文字そのものによる感情表現が可能となった.さらに「記号」の多様化と多用によっていっそうダイナミックな表現が可能となったことなどが主な内容である.
著者
鈴木 孝典
出版者
東海大学
雑誌
東海大学紀要. 開発工学部 (ISSN:09177612)
巻号頁・発行日
pp.27-44, 1992-03-30

The present paper contains the Japanese translation of Ibn al-Haytham's "Maqala fi al-athar alldhi fi wajh al-qamar," based on the Arabic text edited by A. Sabra in "Maqalat al-Hasan b. al-Hasan b. al-Haytham fi al-athar al-zahir fi wajh al-qamar", Journal for the History of Arabic Science, vol.1 (1977) pp.166-181. Ibn al-Haytham, who flourished in Cairo in the 10th-11th centuries, is one of the representative figures of Arabic science. He is best-known as a physicist who made a great contribution in optics. The treatise on the marks on the surface of the moon in one of his works in this field, written after the great Optics (Kitab al-manazir). As in former treatises "The Light of the Stars" (Maqala fi adwa' al-kawakib) and "The Light of the Moon" (Maqala fi. daw' al-qamar) which are cited in this treatise, he tries here to apply the new methods and theories which he founded in Optics to the heavenly phenomena. There are some new aspects which are not found in Optics concerning radiated bodies and the relation between light and color.
著者
繁田 亜友子 濱本 和彦 野須 潔
出版者
東海大学
雑誌
東海大学紀要. 開発工学部 (ISSN:09177612)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.117-125, 2011-03-31
被引用文献数
2

本研究は,学習者が問題解決中に学習内容に対して主観的に感じる「簡単」,「難しい」の評価を主観難易度と定義し,選択式英語リスニング電子教材を対象に,学習者の解答時間における眼球運動から問題個別の主観難易度を推定する手法を提案する.まず,大学生5 名(男性2 名,女性3 名)を対象に学習中の眼球運動と学習内容に対する主観評価とを対応付ける測定実験を行い,推定に有効と思われる特徴量について検討した.t 検定の結果,主観難易度の評価間において眼球運動の移動速度,視野角度変位,移動速度の標準偏差,視野角度変位の標準偏差,瞬きの回数に有意差が確認されこれらを特徴量とすることとした.次に,抽出した特徴量を用い,学習者の主観難易度をマハラノビス距離により推定した.マハラビス距離の演算時は,固有値の影響を考慮し累積寄与率が97%以上となる第m 番目の固有値までを用いた.シミュレーション実験の結果,「簡単」84.2%,「難しい」88.5%の推定の一致率が得られた.
著者
岩岡 隆介 田中 啓夫
出版者
東海大学
雑誌
東海大学紀要. 開発工学部 (ISSN:09177612)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.61-68, 2007-03-31

人間には多くの人の会話の中から特定の人の話だけを取り出して聞く能力がある.聴覚心理学ではカクテルパーティ効果と呼んでいる.それと類似した問題として,複数の信号源が発する信号を複数の異なった観測点で観測すると,異なった割合で信号の混合したものが観測される.このとき得られる複数の混合信号から信号源の信号をそれぞれ分離推定する方法が,独立成分分析である.信号源としては,会話(音声)や音楽(楽器)であってもよいし,画像であってもよい.独立成分分析では,信号源の信号に互いの独立性だけを仮定し,信号の分離係数を観測信号から学習によって推定している.現実には,すべての信号源がいつも信号を発しているわけではない.会話は途切れることがあるし,楽器も演奏していないときがある.そのようなときは,独立性の仮定が成り立っていない.実際実験において,信号がない状態では学習が誤った方向に進んでしまう.そこで,信号源の信号の有無に関する情報が必要になる.信号源の信号を分離する問題で信号源の信号の情報を必要とすることは,厳密には矛盾した問題である.しかし,信号源の信号が存在する時間に対して学習速度が十分速ければ,学習途中に得られる情報を基に学習の制御が可能となる.本論文では,学習環境として観測データを再度学習に利用しないリアルタイム音声分離について考察した.2つの信号源について信号源の信号の有無を判定する判定式を提案し,リアルタイム処理で実験した.本論文で提案した方法を自然勾配法と非ホロノーム法と比較検討し,有効性を示した.3つ以上の信号源への拡張も可能である.
著者
影山 芳之 町田 洋子 森田 敦
出版者
東海大学
雑誌
東海大学紀要. 開発工学部 (ISSN:09177612)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.47-51, 2005-03-31
被引用文献数
1

要介護度1以上の高齢者が入所する特別養護老人ホームでは, 看護師やヘルパーが24時間体制で介護を行っているが, 夜間は監視体制が不十分になるために, 時として徘徊等から転倒事故が発生しているのが現状である. 夜間の転倒事故を防止するためには, 人感センサ等を部屋に設置し, 行動を監視することが考えられる. そこで本研究では, 簡単な構造の人体検出装置を介護施設に設置し転倒事故を防止するとともに, その有用性について検討した. 特別養護老人ホームにて夜間転倒事故を起こす入所者の部屋に人体検出装置を設置し, 観察を行った. 軽度の痴呆症状を呈する入所者の部屋に, 赤外線センサによる人体検出装置を設置し, 夜間に人体を感知すると既存のナースコールを鳴らすようにした. 人体検出装置設置後は, 介護者により入所者を観察, 記録した. 記録には, ナースコールの時刻とその時の入所者の状況, 排尿の有無, 睡眠時間や日常生活動作の変化などを記入した. また, 夜間巡回時に特に変化がある場合は, その状況も記録した. 結果, 月平均2件の転倒事故が, 取り付け後0件に減少した. また排尿が集中している時間帯が明らかになり, 検出装置取り付け以前の排尿誘導時間に1〜3時間のずれが生じていることも判明した. 検出装置取り付け後は, (1) 安心して睡眠が取れるようになった, (2) 昼夜逆転していた生活リズムが正常に戻った, (3) 表情が明るくなり活動的になった, などの変化が入所者に見られた. 今回使用した赤外線センサを利用した人体検出装置は, 簡単な構造で設置も誰にでもでき, しかも安価で維持費も安いという特徴を持っている. したがって今後, 特別養護老人ホームや医療施設などでは非常に有用であると思われる. しかも高齢者の行動を把握するだけでなく, 介護者の負担の軽減とそれに伴う安心感, 介護方法の改善などに大いに役立つと考えられる.
著者
田中 彰吾
出版者
東海大学
雑誌
東海大学紀要. 開発工学部 (ISSN:09177612)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.7-14, 2006-03-31

この論文は,近代科学という知の形式の問題性について考察し,オルタナティヴな知のありかを展望しようとするものである.考察の手がかりとして,E・フッサール,中村雄二郎という二人の哲学者の科学批判を取り上げる.両者の議論とも,近代科学の問題点を的確に指摘したものとして比較的よく知られている.中村は,科学という知の営みの特徴を,「普遍性・論理性・客観性」という三つの特徴が結合したことに見出している.近代科学は,観察者の主観から自然を切り離し,自然のうちに内在する因果関係を記述することで,ローカルな場所に限定されない普遍的な知識の体系を築き上げてきたという理解である.フッサールは,近代自然科学の知の典型的な起源をG・ガリレイに見出している.ガリレイの試みには,純粋な幾何学図形を適用して自然現象を測定し,物体の運動をはじめとする現象を代数的に表記したという特徴がある.近代科学の視線は,自然を客観的に測定する試みに始まって,逆に測定された姿(理念として把握された姿)こそ真の自然であるとする自然観をもたらしたとフッサールは指摘する.中村やフッサールの議論から明らかになるのは,近代科学の世界観が,世界を直接に経験している主体の場所を排除したということである.これは,身体によって世界のうちに根づいてい,という私たちの素朴な生の事実が,学問から捨象されてきたことを意味するだろう.「身体で分かる」という知のあり方のなかに,学問の主題として発掘すべき知の領域が広がっているのである.
著者
光本 健次
出版者
東海大学
雑誌
東海大学紀要 開発工学部 (ISSN:09177612)
巻号頁・発行日
no.9, pp.33-41, 1999

講道館柔道の創始者である嘉納治五郎は,柔道の形について「将来は特殊の目的をもって行ういろいろな形が新たにできてよいはずである」(1930年)と述べている。この嘉納の言葉は,目的に応じて形を新たにつくり出すことを認めるものと受けとめることができる。私は,1997年日本武道学会においてデンマークで考案された「連絡の形」に関する研究の一端を発表した。この形は,形としての成立条件について課題は残されているものの,近代柔道を代表する選ばれた連絡技術を組み立てたという点に他にない特徴が見られ,先行的な試みとして注目できる。講道館柔道の形は一つ一つに歴史的背景はあるが,技と技を連絡するこの種の形は公表されていない。柔道の技は単なる一つの技にとどまらず,技に連絡の幅を持たせることは技能上達の上でも極めて重要なことである。本来,連絡技術は個々につくり上げていくものであるが,学校柔道や,柔道の発展途上にある海外指導でも連絡技術を学習できる形があれば,連絡技における「くずし」と「つくり」の原理も親しみやすく理解できるのではないかと思われる。本研究では,デンマーク「連絡の形」の着眼点に注目し,乱取の形とも言われる講道館柔道「投の形」とデンマーク「連絡の形」の比較において形の成立条件を明らかにし,この二つの形をベースに新たな「連絡の形」の創作を試みる。
著者
兵頭 昌雄 大岩 忠彦 岩澤 宏哲 清水 英寿 中山 一大 藤江 康光 堀越 哲郎
出版者
東海大学
雑誌
東海大学紀要. 開発工学部 (ISSN:09177612)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.213-222, 2000-03-10
被引用文献数
1

真核生物のリボソーム遺伝子(rDNA)は,ゲノム内で反復配列として数百コピー存在し,核小体の中心を形成している。このDNA領域の塩基配列は分子進化学における研究対象となっている。我々の研究室で維持されている4系統の日本産メダカ(0ryzias latipes)における18S rDNA領域の構造について研究する目的で,このDNA配列をPCR法により増幅する条件について検討した。その結果得られた最適条件は,(1)鋳型DNA量;100ng,(2)プライマー濃度;0.2μM,(3)変性;94℃1分,アニーリング;60℃1.5分,伸張;72℃2分,(4)サイクル数;35,であった。この条件下で約1.8kbと比較的長いDNA鎖である18S rDNAが増幅でき,その反応液中の収量は19.5ng/μ1であった。18S rDNAの収量をさらに増加させるために,PCR産物を鋳型として再増幅することを試みた。しかし,再増幅では,1.8kb以外の長さの異なるバンドも増幅されており,有効ではないことが明らかになった。つぎに4系統のメダカ(近交系野生型クロメダカ〔HB-32C系統〕,沼津市浮島地区で採取された野生型クロメダカ〔BMT系統〕,体色に関する変異株であるヒメダカおよびアルビノ〔i/i系統〕)のゲノムDNAをもとにPCRにより18S rDNAを増幅した。その結果いづれの系統のDNAからもほぼ同量の18S rDNAが得られ,ゲノムあたりのコピー数は一定であることが示唆された。
著者
横山 和 堀川 宗之
出版者
東海大学
雑誌
東海大学紀要. 開発工学部 (ISSN:09177612)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.71-77, 2006-03-31

最近,VDT(visual display terminal)作業や長時間の単一作業が原因で,肩凝りや肩腕痛を訴える人が増加している.これらの頸部や肩腕部の頸肩腕障害に対する治療方法の一つとして,入浴や入湯によって患部を温める温浴療法がある.温浴の心・血管系に及ぼす影響についての研究はこれまでにも行われているが,温浴が筋硬度や筋疲労度に与える効果についての研究は見当たらない.そこで,僧帽筋に対する温浴の効果を,筋硬度計で測定した筋硬度と,表面筋電図から得られるmean power frequency (Fm) を指標に用い,13 人の大学生を対象に検討した.湯温を40℃に設定した浴槽に,肩部が全て浸かるように10 分間入浴し,入浴前を対照に,出浴後60 分間にわたって15 分毎に筋硬度と表面筋電図を測定し解析した.全被験者を対象にすると,入浴前の筋硬度とFm の間に相関は認められなかったが,被験者のうちで筋硬度が平均値より高い群では負の相関が認められ,筋の硬さが増すほどFm は低周波化した.Fm は筋疲労に伴って低周波領域にshift(slowing)するので,筋硬度の高い群では筋疲労が相対的に強く起こっていると考えられる.温浴は筋硬度を入浴前に比べて25%も減少させて筋を軟らかくし,出浴後60 分においてもなお6%低値を示した.入浴前後でFm の有意な変化は全被験者対象では認められなかったが,入浴前のFm が平均値より低い群では出浴直後にFm が3%上昇し,出浴後60 分まで高値を維持した. Fm が低い群では温浴により血液循環が促進され蓄積された代謝産物が除去されたことによって筋疲労が改善されたものと推測された.
著者
佐藤 恵子
出版者
東海大学
雑誌
東海大学紀要. 開発工学部 (ISSN:09177612)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.1-12, 2001-03-30

Eugenics can be defined as a science which deals with the improvement of hereditary qualities of human beings through scientific breeding. Today, facing the new age of scientifc technology, particularly life-manipulating technology, we feel an urgent need to pay attention to the historical significance of eugenics once more. For from this word, eugenics, we are reminded of the Nazi's inhumane cruel act, which we should absolutely not repeat in the future. It's quite natural for us to condemn the Nazis for their crimes, but on the other hand, as a backdrop, we must clarify objectively what eugenics was and how it originated in Europe about the turn of the century. Ernst Haeckel (1834-1919), a famous zoologist from Germany, was also well known as a social Darwinist and played an important role at an early stage in the history of eugenics. From the abovc-mentioned viewpoint, this paper will examine his eugenic thought and clarify its characteristics.
著者
池田 良彦
出版者
東海大学
雑誌
東海大学紀要. 開発工学部 (ISSN:09177612)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.1-10, 2000-03-10

The Nagoya District Public Prosecutor's Office has decided not to indict four employees of China Airlines who were suspected of professional negligence in the 1994 crash at Nagoya Airport that claimed 246 lives. Prosecutors said that they believe successive operational mistakes by pilot A, 42, and copilot B, 26, led to the disaster. Both A and B were killed in the crash of the Airbus A300-600R on April 26, 1994. Prosecutors allege that the pilot and copilot made successive operational errors over eight stages, including mistakenly aborting a landing approach and then manually forcing a landing while the autopilot was in the abort-landing mode. The pilot's manual warns that attempts to interfere with the autopilot during a landing could result in a sudden steep ascent of the aircraft and dangerous loss of speed. "If the pilot and copilot had had basic operational skills, they could have avoided" the crash by correcting the aircraft's position during one of the eight stages, prosecutors said. "There is insufficient evidence to file charges against the four officials as the airline's crew training and qualification system was not inferior to those of other airlines", prosecutors said. In September 1996, police sent to prosecutors their investigation reports on the six CAL employees, including a former vice president of CAL who was in charge of safety measures at the time. In this article, the author introduces and analyzes a new type of administrative and supervisory negligent liability.
著者
佐藤 恵子
出版者
東海大学
雑誌
東海大学紀要. 開発工学部 (ISSN:09177612)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.1-7, 2002-03-30

We daily use the public transportation system such as trains, buses or streetcars, to go to the office, school, shopping, etc. In the inside of these cars, the passengers are required tacitly to feign inattention to one another. For they just happen to be there, for a short time, as strangers. From the viewpoint of communication in the public sphere in the city, this rule is very important to keep our relations smooth, but it is not strictly formulated. Recently we are often annoyed in the cars by behaviors and disturbances such as talking over a mobile phone, noise leaking out of a mobile stereo, people sitting directly on the floor, people putting makeup on, etc., feeling that this is a violation of the tacit rule in the public sphere. But people who behave so assert that they obey the rule of inattention and cannot understand why they are blamed. There must be a misunderstanding. By analyzing some typical examples of the nuisances, the true meaning of this rule will be shown. This paper will clarify, what this tacit rule is -historically and sociologically-, why the above-mentioned behaviors are against the rule, and particularly what kind of effect the new mobile medium has on human relations in public.
著者
鈴木 和夫
出版者
東海大学
雑誌
東海大学紀要. 開発工学部 (ISSN:09177612)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.47-54, 2008-03-31

この総説では痛みの定義および古代からの痛みの治療について挙げ,レーザー治療に至る経緯,現在のレーザー治療およびその鎮痛機序の解析について紹介している.低出力レーザー(ソフトレーザー)とはどの様なものか述べ,実際の治療について麻酔科領域や整形外科領域の症例の肯定的および否定的両方の報告を示した.次に低出力レーザー照射鎮痛機序の解析的研究について,痛覚誘導をおこす物質や微生物を用いた疼痛モデル動物実験を挙げ,低出力レーザーが鎮痛に確かに効果があることを述べた.また,人為的に発生させた痛覚の活動電位(スパイク)を中枢に伝える感覚神経にレーザー照射したときスパイクは抑制され,レーザーはC 神経線維由来の感覚シグナル,つまり疼痛に特に効果があることを紹介した.そして,ミトコンドリアやATP などの生体活性物質が低出力レーザーにより変化して,それが起因して鎮痛がおこるという説,血流改善による鎮痛作用,中枢の下降性抑制系の賦活化による鎮痛作用,神経細胞膜のチャネルに作用,および発痛物質のシグナル伝達系の蛋白質に作用するという説を紹介した.これらの仮説から鎮痛機序をさらに解明するには中枢神経系の下降性抑制系のレーザーによる賦活化,およびレーザーが細胞レベルの物質に作用して光活性反応による分子構造変化を誘発しシグナル伝達を変調させるという観点から研究を進めることが期待される.
著者
片岡 勲人 森本 忠夫
出版者
東海大学
雑誌
東海大学紀要. 開発工学部 (ISSN:09177612)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.133-137, 2011-03-31

CG(コンピュータグラフィックス)は,現在,映画,ゲームソフト,CM,シミュレーション,バーチャルリアリティなどに盛んに使われている.CG を作成するには,芸術(アート)的なセンスやデザインの知識も必要となる.CG には,2 次元CG と3 次元CG とがあるが,本科目では,主に2 次元CG を製作する上で必要な技術およびアートやデザインとCG との関係を理解することを目的としている.当初,授業プログラムはCG 作成のためのシステム,デジタル画像の表現方法,2 次元図形処理,座標変換などの基礎的な技術の解説,ペイント系,ドロー系の主要なツールの使い方と応用として広告デザイン,イラスト(マンガ)制作を課題とするもので,授業アンケートにおける総合評価では,満足している回答が60〜80%であったが,「問題を発見し解決する能力がついた」と答えた履修生は0〜10%,と改善が望まれた.その要因として,多様なCGソフトウェアの使用方法が学習の目的となり,デザインプロセスによって問題を解決する学習時間が少なく,課題の構想や批評まで至らなかったことがあげられる.この改善として,2007 年度から,携帯電話のデザインプロセスを学習の流れとし,CG ツールを扱う能力,アイデアを具現化する能力,評価する力,プレゼンテーションする能力を連携させた授業プログラムに変更した.再度,授業評価を行ったところ,「問題を発見し解決する能力」,「総合評価」,「関心が持てるような授業内容だったか」について学習効果の向上を確認した.その一方,課題が高度になるにつれ,「授業の内容は分かりやすいか.」「与えられた課題に取り組む時間が十分にあったか.」では,改善を求める意見にて10〜40%の増加を確認したが,制作のやり直しを行う時間的余裕を設けることで解決した.
著者
坂本 誠一郎 山崎 剛
出版者
東海大学
雑誌
東海大学紀要. 開発工学部 (ISSN:09177612)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.139-145, 2011-03-31

米のブランド名の食味評価に与える影響について,東海大学開発工学部学生20 名をパネルとして試験を行った.ブランド名を表示しない場合の評価はヒノヒカリが最も高得点であったが,表示した場合にはコシヒカリ,ひとめぼれ,ヒノヒカリの順の得点となった.また,ひとめぼれやヒノヒカリをコシヒカリと偽表示した場合は,名実共にコシヒカリの時と同様に高得点になった.このことからブランド名の重要性が示唆された.
著者
清水 嘉隆
出版者
東海大学
雑誌
東海大学紀要. 開発工学部 (ISSN:09177612)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.67-78, 1994-03-30

This paper mainly intends to make clear the characteristics of transitive and intransitive expressions in English based on the consideration of English and Japanese ways of thinking. It has already been said that English is linguistically called a 'Do language' or a 'Have-language', while Japanese is a 'Become-language' or a 'Be-language'. This shows that English prefers transitive verbs to intransitive ones. In other words, the basic sentence structure of English is characteristic of SVO style, whereas these English sentences of SVO style are often expressed by SV style in Japanese. English is a language that forms the basis of the remarkable contrast between the subject and the object, but Japanese is a language that is based on the non-contrast between them. It can be also pointed out that many Japanese intransitive verbs have spontaneous generative implications. There-fore, they have a tendency to leave a matter to take its own course. In English the form of description is generally objective and logical, whereas in Japanese the emotional feeling is very strong. English is said to be a person-oriented language and Japanese is a status-oriented one. It follows that in English a person is frequently used as the subject, while in Japanese it is not necessarily employed and the object in English often becomes the subject in Japanese. Also, in English special attention is paid to the role of nouns. One of the reasons why transitive verbs are frequently used in English is that English prefers nominal constructions to verbal ones. This means that the subject and the object are strongly connected to each other.
著者
片岡 勲人 池谷 俊一 杉山 哲朗
出版者
東海大学
雑誌
東海大学紀要. 開発工学部 (ISSN:09177612)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.127-132, 2011-03-31

現代において「映像」はあらゆる産業分野で利用されており, 私たちの生活にとって不可欠な存在になっている. 映像表現は,活字や画像によるイメージと同様に情報伝達の手段として一般化し, 映像制作の環境を柔軟に使いこなす能力や映像コンテンツを企画する能力が要求されている. 著者らは「映像理論と制作演習」の授業プログラムを開発した.「映像理論」では, 映像表現は静止画である「写真」を原理として創造されていることを学び,S. エイゼンシュテインのモンタージュ理論と溝口健二や黒澤明の映画作品の研究をすすめた.「制作演習」では, シナリオ作成, 撮影,VTR 編集,CG との合成映像, 音声編集等を行い, テーマをもった映像作品の制作と批評を行うことを目標とした. 学生による授業アンケートでは, 初年度2006 年の総合評価において, 満足している回答が80%であったが,「問題を発見し解決する能力がついた」と答えた履修生は0〜20%と改善が望まれた. その要因として, 技術的な指導に偏ったことや, 作品の構想や批評の後, 再度, 制作する時間が十分でなかったことなどがあげられる. 開講2 年目の2007 年度より, 現像実習と撮影実習を並列交互に実習し, 待ち時間を少なくすることや「, 構想, 制作, 発表」の課程からなる「60 秒のメッセージ映像」の作品制作を2 度行い, 初回は映像制作の問題発見を,2 回目はその解決を目指した. これらの改善後に授業評価を行ったところ,「問題を発見し解決する能力」について履修生の50% ,「社会的視野」では20%の向上を確認した. 一方, 作品制作のテーマ発見を促すに従い,「授業の内容は分かりやすいか」「与えられた課題に取り組む時間が十分にあったか」では, 改善を求める意見が10〜30%の増加を確認した. さらに,「授業が分かりやすいか」の傾向と「成績」の傾向の一致を確認し, テーマ策定方法など, 次回への課題を明らかにした.
著者
砂田 寛司 堀越 哲郎 榊原 学
出版者
東海大学
雑誌
東海大学紀要. 開発工学部 (ISSN:09177612)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.65-75, 2009-03-31

これまでの研究でヨーロッパモノアラガイの成体(殻長21 〜 26 mm)を用い,嫌気状態下での呼吸行動を1回のKCl 提示により減少させるone-trial conditioning を行うことにより長期記憶が形成されることと,オペラント条件づけにおいて,モノアラガイの捕食者であるザリガニの溶出物(crayfish effluent: CE)を含むザリガニ飼育水中で,条件づけを行うと,pond water(PW)下でトレーニングを行ったときと比較し,長期記憶の保持時間が延長されることが報告されている(Lukowiak et al., 2008).本研究ではCE 環境のone-trial conditioning に対する長期記憶の形成と,延長の効果を成長段階で呼吸様式の変化がある幼生(殻長12 〜 16 mm)と成体に分けて検討した.長期記憶の形成に伴う電気生理学的な活動の変化を,呼吸行動の中枢リズム発生器(CPG)であるRPeD1 と,RPeD1 を抑制的にシナプス結合する殻引込みの介在ニューロンRPeD11 から記録した.その結果,幼生においてPW 環境でトレーニングしても長期記憶は形成されないが,CE 曝露後に行うトレーニングにより長期記憶が形成された.また成体ではCE 曝露後のトレーニングでは長期記憶の保持時間は延長した.またRPeD1 で見られる電気生理学的な活動の減弱は,少なくともRPeD11 がもたらす興奮性増大の影響を受けていることが示唆された.
著者
石井 裕也 大矢 誠司 赤坂 知恵 木村 達洋 長島 圭子 金井 直明 山崎 清之 岡本 克郎
出版者
東海大学
雑誌
東海大学紀要. 開発工学部 (ISSN:09177612)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.112-114, 2002-03-30
被引用文献数
1

To investigate the cognitive aspects of posture control under the apparent force condition generated by auditory stimulation, body sway fluctuation was measured with healthy adult subjects. As an experimental stimulation, an increasing tone for the left ear and a decreasing tone for the right ear were used. Generaliy, while listening to the stimulus, subjects felt that the sound source was moving from right to left under an eyes closed condition. On the contrary , subjects who were shown a moving image of a natural scene which was interlocked to the auditory stimulus before the experiment (cognitive preparation), they felt themselves moving from a left to right direction. In this experiment, body sway was measured with and without the cognitive preparation. Results showed that the center of gravity biased to the opposite direction of subjective movement of the sound source with cognitive preparation. Without cognitive preparation, the center of gravity biased in the same direction of subjective movement of the sound source. It suggests that the higher level posture control reflex was observed in the cognitive condition without any sensory input from the muscle receptors.
著者
池田 良彦
出版者
東海大学
雑誌
東海大学紀要. 開発工学部 (ISSN:09177612)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.17-29, 1993-03-30

The investigation of the crash of the Japan Airlines Boeing 747 in August 1985, has ended without anyone being found criminally responsible. This seems less than satisfactory. The crash of the JAL jetliner in a mountain in Gunma-ken claimed 520 lives. The Maebashi District Prosecutor's Office decided not to indict anyone from Boeing Co., JAL or the Transport Ministry. These parties had been referred by the police to the prosecutors for possible involuntary manslaughter charges. The prosecutor's office said the direct cause of the crash was faulty repair on the bulkhead of the aircraft by Boeing technicians after the plane was damaged at Osaka International Airport in 1978. During its investigation, the Maebashi prosecution office applied to the U. S. Department of Justice to question the maintenance staff at the U. S. aircraft campany. The request was rejected by Boeing staff on the baisis of an amendment to Article 5 of the U. S. Constitution which guarantees Americans rights to refuse taking part in hearing that may bring criminal charges against them. In the United States, greater weight in an investigation is placed on preventing a recurrence of a similar accident than on pursuing a criminal indictment. Charges against JAL and Transport Ministry officials were dropped on the grounds that there were insufficient evidence to suggest responsibility. It could have been the first time that the safety design and repairs of an aircraft would figure in a judical case. In this article, author introduced and analyzed a new type of administrative and supervisory negligent liability.