著者
加藤 三四郎 小山 恵美 川北 眞史
出版者
日本時間学会
雑誌
時間学研究 (ISSN:18820093)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.45-62, 2017 (Released:2018-08-01)

インターネット掲示板などの自己発信が可能なメディアの普及に伴い,企業がいわゆる「炎上」の被害を受けるリスクも増加している。本研究では,「炎上」の被害を最小限に留めるため,インターネットの掲示板を対象に「炎上」を定量的に評価する手法を提案する。具体的には,投稿数が日内変動することを考慮して求めた「炎上値」という新たな評価尺度を導入して「炎上」の状況を指数化し,時間に伴う変動をその波形により把握することを試みた。しかし,インターネット掲示板の特性上,物理的時間を時間の単位とすると「炎上値」の波形が実態を反映しない場合がしばしばみられた。そこで,インターネット掲示板での一定数の投稿のかたまりを表す「スレッド」を時間の単位として「炎上値」を新たに算出した。炎上値の波形は,時間の単位に「スレッド」を用いた場合,物理的時間を用いた場合に比べ,より平滑化された。これにより,「炎上」しているかどうかの判別も容易になると考えられる。また,「炎上」を定量化したデータを用いて,「炎上」の予見などに関する研究を行う際にも「スレッド」を時間の単位としたほうが有効である可能性も示された。一例として,この時間単位を用いて炎上値と特定の単語・記号の投稿数との時差相関分析を行うことで,投稿者同士のコミュニケーションの減少は「炎上」の予兆となる可能性が示唆された。今後の課題として,本研究の成果をもとに,炎上値の波形及び投稿内容から定量的に炎上の始まりと終わりを判定するアルゴリズムを作成する必要があると考える。
著者
加藤 三四郎 小山 恵美 川北 眞史
出版者
日本時間学会
雑誌
時間学研究 (ISSN:18820093)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.19-37, 2019 (Released:2020-05-27)

自己発信可能なメディアの普及に伴い、炎上現象も増加している。前報では、インターネット掲示板(以下、掲示板)における炎上現象の時系列定量評価手法を提案し、投稿数の時系列変動を評価する単位として、物理的時間よりもスレッドを用いる方が効果的であることも明らかにした。ただ、この手法だけでは、投稿数の急増が、炎上であるか、議論の活発化であるか判別できないなどの課題が残った。この課題を解決するには、投稿内容を質的に評価する必要がある。この質的な評価には、極性辞書に基づく、PN(ポジティブ/ネガティブ)判定が有効とされる。しかし、既存辞書の多くは口語的表現に対応せず、それらが多用される掲示板上の分析には不向きである。そこで本研究では、炎上現象の時系列解析の精度向上をめざし、投稿内容の評価に適した極性辞書を作成する。 本研究では、口語表現などへの対応を念頭に、評価者20名の8775語に対する極性評価を基に辞書を作成した。この辞書を評価するため、炎上事例を対象に前報で炎上の量的評価指標として導入した炎上値を算出し、既存辞書と本辞書それぞれを基にPN判定により求めたPN値との相関係数を比較した。炎上のピークを平準化するため、20スレッド移動平均による炎上値とでは、本辞書で強い有意な負の相関がみられた一方、既存辞書では弱い有意な負の相関にとどまった。本辞書を用いることで炎上現象をより精確に分析できる可能性が示された。