著者
樋口 雄介 加藤 修雄
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
化学と生物 (ISSN:0453073X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.10, pp.732-739, 2016-09-20 (Released:2017-09-20)
参考文献数
38

タンパク質–タンパク質間相互作用(Protein–Protein Interactions: PPI)の制御が興味を集めている.特にマルチクライアント型(複数のPPIの相手をもつ)タンパク質が関与するPPIの選択的な制御には小分子による制御が有効である.遺伝子knockout/knockdown手法は,関与するすべてのPPIを消失させ,有効な知見の取得にはつながらない.マルチクライアントタンパク質には,マルチドメイン型(複数のPPIサイトをもつ)とシングルドメイン型(単独のPPIサイトしかもたない)があるが,後者の代表例として,細胞内シグナル伝達経路を制御している14-3-3タンパク質が知られる.本稿では,主に天然のフシコッカン型ジテルペン配糖体とその半合成誘導体による14-3-3タンパク質の機能制御について概説する.
著者
加藤 修雄
出版者
大阪大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

14-3-3タンパク質は、真核細胞生物に普遍的に高い保存性を持って存在し、Ser/Thr kinaseが関与する細胞内信号伝達経路上にあって、標的タンパク(200種以上)とリン酸化依存的に会合体を形成することで信号伝達を制御している。本課題においては、この14-3-3タンパク質複合体にさらに会合し、機能モデュレータとして働くジテルペン配糖体・コチレニン(CN)およびフシコクシン(FC)類を用いて信号伝達系を解析・制御することを主たる目的にした。CNおよびFCは、いずれも14-3-3たんぱく質とリン酸化たんぱく質(H^+-ATPase)の会合状態を安定化することで強い植物ホルモン様活性を示すことが知られているが、動物細胞に対する活性は異なり、前者のみがヒト前骨髄性白血病細胞(HL-60)に対して分化誘導活性を示す。この活性の相違が、14-3-3たんぱく質とその共通認識配列であるRSXpSXPとの会合状態に対するCNとFCの効果の相違に起因すると考え、等温滴定熱量(ITC)測定によって評価した。14-3-3たんぱく質とRSHpSVPの2者会合体に対してCN/FCを滴下し、ITC測定を行ったところ、CNは3者会合体を形成することで2者会合体を安定化するが、FCはさらなる会合体を形成しないことが明らかになった。この結果をdocking studyによって考察した結果、FCの12位水酸基が3者会合体形成を阻害していることが予想された。以上を踏まえ、12-デオキシFC誘導体を合成し、HL-60に対する分化誘導活性を評価したところ、予想通りCNに匹敵する分化誘導活性が認められ、12位水酸基の有無が活性発現に決定的な要因となっていることを明らかにした。