著者
太田 珠代 妹尾 翼 布野 優香 加藤 勇輝 江草 典政
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101461, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】 我々は,島根県内でのスポーツ傷害の予防や外傷からの復帰の積極的支援を目的として,島根大学医学部整形外科学教室と近隣の病院・養成校が協力し島根スポーツ医学&リハビリテーション研究会を組織した.その活動の一環として,2012年夏季に島根県隠岐の島町の中学生に対してスポーツ傷害の予防,成長期障害の早期発見のため運動器検診を行った.スポーツ傷害の原因として,overuse,柔軟性の低下,過負荷,アライメント・パフォーマンス不良,低栄養等が報告されている.運動器検診を通して,成長期スポーツ傷害の実態,スポーツ障害と関節柔軟性の低下との関連を明らかにし,今後の継続した支援に向けて様々な視点から検討したので以下に報告する.【方法】 島根県隠岐の島町の4中学校の1~2年生240名(男子:112名,女子:128名)に対して,関節可動域(ROM),柔軟性の指標として,股関節外旋(HER)・内旋(HIR),膝屈曲位での足関節背屈(DKF),膝伸展位での足関節背屈(DKE),指床間距離(FFD),下肢伸展拳上(SLR),踵臀部間距離(HBD)を計測した.成長期では大腿骨前捻角の個人差が大きく股関節回旋角度への影響があると考え,HERとHIR合計し孤として可動域を評価した(tHR).また,マークシートを用いた運動器疾患の一次スクリーニングを実施し,運動器疾患の疑いがあると判定された71名について,整形外科医が診察を行い,54名が運動器疾患有りと診断された.この内,急性外傷,側弯症,先天性疾患を除いた31名(男子:19名,女子:12名)をスポーツ障害有り群とし,残りの209名から急性外傷を除いた205名(男子:90名,女子:115名)をスポーツ障害無し群とし柔軟性を比較した.スポーツ障害の部位は上肢7名(男子:4名,女子:3名),下肢20名(男子:12名,女子8名),腰部4名(男子:3名,女子:1名)であり,各部位ごとに障害の有り群と無し群で柔軟性の比較・検討を行った.統計学的検定にてtHRは,正規分布していたためスチューデントのt検定を使用し,その他の項目は正規分布していなかったため,マン・ホイットニーのU検定を用いた.危険率5%未満を統計学的有意差有りとした.【倫理的配慮、説明と同意】 事前に各学校に検診の意義と方法について説明し,同意を得て実施した.なお収集したデータは個人が特定できないよう匿名化した.【結果】 スポーツ障害有り群では右HERが[障害有り/無し] 60.6°/65.1°と有意に低下していた.障害部位別では上肢障害有り群では,右tHRが[障害有り/無し] 105°/123.5°と有意に低下しており,腰部障害有り群では,左HBDが[障害有り/無し] 3.1 cm/0.7 cm,DKFが[障害有り/無し] 17.5°/24.2°と有意に柔軟性が低下していた.下肢障害有り群では,柔軟性に有意差はなかった.他の検査項目では統計学的有意差は認めなかったが,障害有り群で柔軟性が低い傾向があった.【考察】 上肢障害は下肢柔軟性の低下に起因することが知られており,本研究においても上肢障害と股関節内外旋の合計角度が関係している事が示唆された.また,成長期においては股関節外旋・内旋の個々の柔軟性のみではなく,股関節内外旋の合計角度を観察していく事が必要であると考えられる.腰部障害では,足関節の柔軟性,ヒラメ筋,大腿四頭筋のタイトネスが関係している事が示唆された.一方,下肢障害では各測定項目との関連が見られなかった.これは,下肢障害の発生原因として,柔軟性だけではなく,overuse,アライメント・パフォーマンス不良の影響も大きいためと考えた.今回,各中学校でストレッチの指導を行っており,今後柔軟性の改善とともにスポーツ傷害の発生率が低下するかを明らかにするため,調査を継続していくことが重要である.【理学療法学研究としての意義】 学校単位での運動器に焦点をあてた検診は全国でも少なく,小学生・中学生の成長期におけるスポーツ障害、外傷とROM,柔軟性と因果関係のある因子を見つける事で,早期にスポーツ傷害の予防指導ができ,スポーツ傷害が減り,長期間スポーツに関われる子どもを増やせるのではないかと考えられる.