著者
吉田 俊巳 加賀 誠司 盛合 理 植田 修 千葉 俊明 阿部 弘一 三浦 義明 滝川 康裕 井上 義博 中舘 一郎 班目 健夫 加藤 章信 柏原 紀文 石川 和克 鈴木 一幸 佐藤 俊一
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.28, no.11, pp.1490-1496, 1987-11-25 (Released:2009-07-09)
参考文献数
19

HBe抗体陽性キャリア妊婦から垂直感染し出生50日目に出生児が急性B型肝炎を発症し,さらに患児の発症から92日目に父親がB型劇症肝炎を発症し救命しえた家族内感染例を経験した.患児は発熱・哺乳力の低下で発症.GOT 11,380U, GPT 5,060Uと上昇しプロトンビン時間(PT)10%と著明な低下を示した.HBs-Ag陽性,anti HBc (200倍)74%であった.総ビリルビン(T. Bil)が漸増し32mg/dlとなり凝固能の改善がないため,プレドニゾロンを使用したところ改善し,急性肝炎重症型と考えられた.父親は嘔気・全身倦怠感で発症.T. Bil 14.7mg/dl, GOT 1,675U, GPT 4,690U, PT12%, HBsAg陽性,IgMHBc3.29と陽性.昏睡II度となりプレドニゾロン,グルカゴン-インスリン療法,特殊組成アミノ酸などの治療にて改善した.母親から出生児に垂直感染し,患児から父親に水平感染したと思われる.HBe抗体陽性キャリア妊婦からの出生児に対してもHBIGなどの対策が必要と考えられる症例である.
著者
朝倉 伸司 佐々木 廉雄 足助 雄二 渡辺 弘規 加賀 誠 清水 ひろえ 川田 松江 播磨 晋太郎 長濱 裕 松田 道生
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.42, no.12, pp.947-953, 2009-12-28 (Released:2010-01-27)
参考文献数
19

透析施行に際して動脈―静脈吻合を設置すると,その局所でのblood accessは高ずり応力の存在する動脈系から中あるいは低ずり応力が働くと考えられる吻合部遠位側(心臓側)へと移行するため,吻合部周辺での血栓形成の機序は必ずしも単純ではないと考えられる.さらにPTA(percutaneous transluminal angioplasty)による圧ストレスが血管内壁上で血液凝固線溶機構にどのように関連しているか,あるいは動脈硬化病変が血栓形成にどのように影響するか等については,十分に検討されてきていないのが現状である.今回,われわれはPTA施行前後の当該シャント部位での血液凝固線溶関連因子の変動を検討し,血栓形成の初期に形成される可溶性フィブリン(soluble fibrin, SF)が15例中4例が著明に上昇していることを見出した.また,SFとともにトロンビン―アンチトロンビン複合体(thrombin-antithrombin complex, TAT)も上昇していたが,SFとは相関を示さず,両者の上昇は異なる反応によるものと推定された.SFはフィブリンモノマー1分子に対しフィブリノゲン2分子が結合した3分子複合体であることが示されており,そのフィブリンモノマーの中央に位置するE領域に接合している1対のalpha C globuleがトロンビンにより切断,遊離されることにより,alpha鎖(96-97)に存在するRGDドメインがフィブリンモノマーのE領域表面に露呈されること,また,これが細胞膜に存在し,フィブリノゲン受容体(fibrinogen receptor)として働くα5β1インテグリンおよびビトロネクチン受容体(vitronectin receptor)であるαvβ3をも巻き込みながら細胞伸展を促進することをわれわれはすでに報告しており,SFが単に血液凝固亢進を示す分子マーカーであるだけでなく,血管壁への血小板の強力な接着に貢献することが明らかになった.SFが著明に上昇していた4例(SF著明上昇群)では動脈硬化の指標であるpulse wave velocity(PWV)がSF非上昇群に比し有意に上昇していた.またSF上昇群は非上昇群に対しシャントトラブルの年間発生率が高いことから,SFの上昇はPTA後の血行動態,ことに血栓形成機序の解明ならびにシャントトラブル発生とその予後の予想に有用な分子マーカーとなることが期待される.