著者
勝又 綾子 尾崎 まみこ
出版者
日本比較生理生化学会
雑誌
比較生理生化学 (ISSN:09163786)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.3-17, 2007 (Released:2007-10-02)
参考文献数
77

私達が野外や屋内で何気なく見かけるアリは,分布域の広さとバイオマスの大きさによって,生態系において圧倒的な優位性を示す。高度に組織化されたアリの社会は,それぞれの種が進化過程で培った高度なケミカルコミュニケーションの多様性,すなわちコロニーメンバーが分業し活動を協調させるための,通信コードとしての情報化学物質の豊富さに支えられている。 それではアリ達は具体的に,どのような情報化学物質を,どのように処理して,統制のとれた複雑な行動を示すのだろうか? 本稿では,アリの社会における代表的なケミカルコミュニケーションを紹介し,そこで用いられる重要なフェロモン,化学受容器,一次感覚中枢(触角葉など),高次中枢における情報処理系の最近の研究について触れる。
著者
勝又 綾子 Jules Silverman Coby Schal
出版者
日本比較生理生化学会
雑誌
比較生理生化学 (ISSN:09163786)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.220-230, 2014-12-25 (Released:2015-01-19)
参考文献数
66
被引用文献数
4

チャバネゴキブリの駆除には糖で甘味づけした毒餌が用いられる。しかし毒餌によって急激な淘汰圧を受けた地域では, 毒餌を食べない個体群が出現する。私たちは, これらのゴキブリが摂食促進物質として毒餌に使われるグルコースを忌避することを示し, また, 強い淘汰圧下で出現した「グルコース忌避」という適応的食物選択行動が, 味受容細胞の感受性の変異によることを, 電気生理学的手法で明らかにした。グルコースを好む野生系統(WT型)は, 他の生物種と同様に, 口器にある甘味物質感受性の味受容細胞でグルコースを受容する。しかしグルコース忌避系統(GA型)では苦味物質を感受する味受容細胞がグルコース感受性を示す。つまりGA型のゴキブリは, グルコースを甘味ではなく苦味として判断していると考えられる。また, グルコースと誘導体を用いた構造活性相関試験によって, GA型の苦味受容細胞に発現している味覚受容体の構造が, グルコースと結合するように変異している可能性があることがわかった。急激な環境変化に伴い生物個体群が適応的食物選択行動を新しく出現させる時, 味受容細胞の感受性の遺伝多型が重要な役割を果たしていると考えられる。
著者
勝又 綾子 尾崎 まみこ
出版者
日本比較生理生化学会
雑誌
比較生理生化学 (ISSN:09163786)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.3-17, 2007-01-20
参考文献数
77

私達が野外や屋内で何気なく見かけるアリは,分布域の広さとバイオマスの大きさによって,生態系において圧倒的な優位性を示す。高度に組織化されたアリの社会は,それぞれの種が進化過程で培った高度なケミカルコミュニケーションの多様性,すなわちコロニーメンバーが分業し活動を協調させるための,通信コードとしての情報化学物質の豊富さに支えられている。<BR> それではアリ達は具体的に,どのような情報化学物質を,どのように処理して,統制のとれた複雑な行動を示すのだろうか?<BR> 本稿では,アリの社会における代表的なケミカルコミュニケーションを紹介し,そこで用いられる重要なフェロモン,化学受容器,一次感覚中枢(触角葉など),高次中枢における情報処理系の最近の研究について触れる。