著者
勝又 護 徳永 規一
出版者
気象庁気象研究所
雑誌
Papers in Meteorology and Geophysics (ISSN:0031126X)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3+4, pp.191-204, 1980 (Released:2007-03-09)
参考文献数
24

海洋の低速層 (SOFAR channel) を伝わる地震波“T”は、かなり古くから知られているが、我が国でこの波が大きく明瞭に観測された例は少なかった。1975年南大東島に地震計が設置されて以来、短周期の振動からなる極めて顕著なT波群がよく記録されるようになった。これらは、主として琉球―台湾―フィリピン地域の地震に伴うもので、他の地域の地震ではまれである。 地震計に記録されるTは、海底に入射した地震波により水中疎密波がゼネレートされ、これが海洋を伝わり、沿岸で再び地盤を伝わる地震波に変換されたものである。水中疎密波が大きなエネルギーで遠方にまで伝わるためには、地震波―水中疎密波―地震波の変換が効率よく行なわれること; 海洋をchannel waveとして少い減衰で伝播すること等が必要である。従って、Tの発生と伝播の機構には、地震波が入射する地域、伝播径路および観測点付近の海底地形が大きく関与することになる。南大東島はこれらに関し好条件が揃っているため、Tを大きく記録するものと思われる。特に、ルソン島近海の地震に伴うTは優勢で、人体感覚を生じる程度の強さとなることもある。 Tの発生源および伝播径路は多様であるが、その主力波群のフィリピン海における平均伝播速度は1.48 km/secで、同海域におけるSOFAR channelの音速の極小値とほぼ一致する。 東シナ海の地震 (震源のやや深いものをふくむ) によるTもよく観測されるが、これらは琉球列島の東側の海底に入射した地震波 (S波の可能性がある) によってゼネレートされたものと推定される。