著者
北 素子
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.253-259, 2012-06-15

はじめに 筆者らは,Catherine Pope,Nicholas Mays,そしてJennie Popayによる書籍『Synthesizing Qualitative and Quantitative Health Evidence : A guide to methods』(2007)を翻訳する機会を得て,医学書院より日本語版タイトル『質的研究と量的研究のエビデンスの統合─ヘルスケアにおける研究・実践・政策への活用』(Pope, Mays, & Popay, 2007/伊藤,北監訳,2009)として出版した。本書は,英国における医療制度と,エビデンスに基づくヘルスケア政策とマネジメントという文脈において執筆されたものであり,英国を発祥とするEvidence Based Medicine(以下,EBM)の情報インフラストラクチャー(コクランライブラリー)のシステマティックレビューに,質的研究を含めてゆくためのさまざまなアプローチがまとめられている。その目的は,質的研究と量的研究から得られたエビデンスを,政策や臨床実践場面での意思決定に活用できる形に統合してゆくことにある。 日本の看護界においても,質的研究・量的研究の量と質を確保することと平行して,それら両方の研究から産み出された成果を活用され得る形にまとめ上げていく気運が高まっている。そのあらわれは,例えば2010年にPatersonらによる『Meta-study of qualitative health research a practical guide to meta-analysis and meta-synthesis』(2001)が邦訳され,『質的研究のメタスタディ実践ガイド』(Paterson, Thorne, Canam, & Jillings, 2001/石垣,宮﨑,北池,山本監訳,2010)として紹介されたこと,さらに2011年,第37回日本看護研究学会学術集会が黒田裕子大会長(北里大学看護学部教授)のもと,「エビデンスに基づいた看護実践を! 現場の研究熱を高めよう」というメインテーマで開催され,メタ分析およびメタシンセシスに関する研究手法を積極的に実践しておられるC.T. Beck博士の招聘講演が行なわれたこと,それに伴い,博士の論文「Meta-synthesis : Helping Qualitative Research Take Its Rightful Place in the Hierarchy of Evidence」(Beck, 2011)(邦題「質的研究をエビデンス階層の正しいレベルに位置づけるのに役立つ方法」)が,本誌『看護研究』44巻4号に収録されたことなど,枚挙にいとまがない。こうした状況の中で,改めてPope博士らによる本書を読み返してみると,質的研究を看護実践のエビデンスとして位置づけるためのさまざまな方略を俯瞰することができるという点で,私たちにさまざまな可能性を示してくれるように思う。 本稿では,第30回のJRC─NQRでの発表内容をもとに,本書の書かれた背景,すなわち質的研究から得られたエビデンスをシステマティックレビューに含めていこうとする統合アプローチの背景と,Pope博士らがその著書で提示している内容から,システマティックレビューにおける「統合」の位置づけ,さまざまな統合アプローチ,および質的方法論を基盤とする解釈的アプローチについて概説する。
著者
高島 尚美 村田 洋章 北 素子
出版者
東京慈恵会医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

本邦におけるICU入室患者のストレス経験を明らかにすることを目的とし、12時間以上人工呼吸器管理を受けICU入室患者にICU退室前に34項目のICU Stressful Experiences Questionnaire日本語版(ICU-SEQJ)を作成し調査をした。96名のストレス経験は、8割近くが口渇を、7割近くが動きの制限、会話困難、気管チューブによる苦痛、痛みや緊張を経験していた。関連要因は、挿管時間、鎮痛鎮静剤投与量、抜管前のCRP値、痛みの訴え、および既往歴のなさ、緊急入室であった。入室患者の多くが苦痛を体験していることを看護師は推測しながら関わりニーズを充足する必要がある。