- 著者
-
北原 弘基
- 出版者
- 熊本大学
- 雑誌
- 若手研究(B)
- 巻号頁・発行日
- 2006
本研究では、巨大ひずみ加工の一種である、繰返し重ね接合圧延(ARB: accumulative roll bonding)により作製した超微細オーステナイトのマルテンサイト変態挙動について検討を行った。昨年度では、超微細粒準安定オーステナイト組織を有するFe-15wt.%Cr-10Wt.%Ni合金は、出発材に比べ、強度および延性が共に増加することを明らかにした。今年度は、超微細粒準安定オーステナイト鋼におけるTRIP(マルテンサイト変態誘起塑性)現象と機械的性質について検討を行った。試料は、Fe-15wt.%Cr-10Wt.%Ni合金とFe-24Wt.%Ni-0〜0.3wt.%Ni合金を用い、Af点以上の873Kで最大6サイクル(相当ひずみ4.8)までのARBを施した。Fe-Cr-Ni合金の4サイクルARB材は、強度・延性とも高い値を示し、降伏点降下減少や応力一定域を有する特異な応力-ひずみ曲線を示した。さらに、その応力一定領域ではリューダース帯が観察された。リューダース帯の進展していない領域では、マルテンサイトの体積率は5.7%であったが、リューダース帯内部では92.4%と大幅に増加していることが明らかとなり、変形部であるリューダース帯内で、加工誘起マルテンサイト変態が生じていることを確認した。このことから、ARB材の大きな延性はTRIP現象によるものであることが明らかとなった。