- 著者
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北岡 茂男
- 出版者
- 日本応用動物昆虫学会
- 雑誌
- 日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
- 巻号頁・発行日
- vol.15, no.3, pp.161-167, 1971-09-25 (Released:2009-02-12)
- 参考文献数
- 22
- 被引用文献数
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マダニ類のマダニ科成ダニの吸血成長過程,またはヒメダニ科の若・成ダニの吸血時における体液浸透圧調節機能の違いを明らかにするため,主要陰イオン成分であるCl-につき宿主血液,ダニ体液,唾液,基節液,尿,体内での各含有量を比較し,その値の浸透圧調節機能における意義につき検討した。1) マダニ科のフタトゲチマダニ,オウシマダニはその吸血過程を通じ,またヒメダニ科のツバメヒメダニ,O. moubataはそれらの発育段階や吸血条件などの著しい相違にもかかわらず,宿主のそれより常に高い100∼160meq/lのほぼ恒常の体液Cl-濃度値を保った。2) 唾液Cl-濃度は以上の種類と条件下において体液のCl-濃度に依存しほぼ同等か,それよりわずかに高めの値であった。3) マダニ類におけるマルピギー管は,昆虫類と比較してCl平衡の上では二次的器官であると言える。4) 体液浸透圧の恒常性を保つための余剰水分と塩分の処理は,マダニ科ダニでは主として唾液分泌による宿主への還元により,ヒメダニ科ダニでは基節器官からの分泌により行なっており,吸血期間の長短を主とする吸血習性や吸血機構の相違と明らかに関連性があるものと考えられる。