著者
北島 義和
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.395-411, 2015 (Released:2017-03-08)
参考文献数
29

農村アクセス問題とは, レクリエーション活動のため農村地域の土地を利用する人々と, その土地の法的所有者 (おもに農民) の間の対立である. この問題をめぐって生じる, アクセスの地点ごとに対話やシステムが成立したりしなかったりする一方, 問題における不正義を明白に指摘することも難しいという事態は, 複数の主体による自然資源管理をめぐる先行研究の枠内には必ずしも収まりきらない. 本稿は, 農村アクセス問題の深刻化したアイルランドにおける山歩きを事例として, そのような状況下でのレクリエーション利用者の対処のありようを, その活動の多地点性を踏まえたかたちで分析する.現在アイルランドの2つのウォーカーの全国団体は, それぞれ正義と対話の観点から農村アクセス問題を捉え, 互いに対立している. 他方で, 実際にアクセスに問題を抱えた現場で活動する登山クラブへの調査からは, 彼らが「農民との良好な関係」という論理を用いつつ, あるべき姿の山歩きという理想を重視する観点からアクセスに対処していることが判明した. そのような実践は, 農民とできるだけ共存しつつこれまでどおりのレクリエーションをおこなっていくための作法として現場で機能しており, レクリエーションの論理それ自体に他者との共存を可能にするような志向性が内在していることを示している. また, この結論は人々の日常的実践がもつ深みに注視することの重要性を我々に教えている.