著者
北川 ケイ
出版者
一般社団法人 日本家政学会
雑誌
日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
巻号頁・発行日
vol.71, no.12, pp.783-799, 2020 (Released:2020-12-19)
参考文献数
188

江藤春代は, 1924年に編物記号である「合理的符号」を考案した編物講師である. 明治期~昭和期に渡る彼女の人生は, 明治維新後の秩禄処分, 日露戦争, 第一次世界大戦, 関東大震災, 日中戦争, 第二次世界大戦と幾度となく政策の変更と戦争や災害に見舞われた. 家族, 特に男手を失う環境が常にあった. 彼女は, 編物で自立 (精神的な自立も含む) すること, 家族の為に編むことに焦点を合わせて正しい編物技術の普及活動を多種多様に行った. 災害や戦争後の復興時における経験を活かした江藤春代の編物普及活動に着目して変遷にまとめた. 江藤春代の編物普及活動を辿ることによって見えてきたことは, 日本女性が生業としての副業を願い, 家庭の平和を願い, 生きる為に編物技術を取得し内職を得ようとしていたことがわかる. 正しい編物技術を身に着ければ, 災害戦争の影響下にある毛糸, 綿糸等様々な糸を使いこなすことが可能になり, 生計を助ける手立てになったのである. 編物は, 欧米では, 教養としての技術であったが, 日本にとっては生きる為の技術であったのである.