著者
北村 康悟 江崎 雄治
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2015, 2015

<b>1.&nbsp; はじめに<br></b>&nbsp; 日本では明治以降,特に戦後の高度経済成長期を中心に,各地で経済性を顧みず鉄道が敷設され,その多くが赤字ローカル線となった.1980年の国鉄再建法の公布により,地方ローカル線は大きな転機を迎え,不採算路線が「特定地方交通線」に指定され路線の廃止,第三セクター鉄道化,バス転換が行われた. <br>&nbsp; 第三セクター鉄道に転換され,廃止を免れた路線も1990年代以降,沿線のさらなる過疎化,少子高齢化の中で厳しい経営状況に置かれた.これら多くの路線は,高校生のような代替の移動手段を持たない住民の定期収入が大きな割合を占める.しかしその高校生も少子化の進行により減少し,鉄道を維持していくことが困難になりつつある.今後も地方の人口減少は避けられず,第三セクター鉄道を支援する地方自治体の財政も厳しさを増すことが考えられる.さらに「平成の大合併」で市域が拡大したことで,税金投入に対し全市域の市民の理解を得ることが難しくなった.また沿線自治体数が減少したことで,存廃の決断をしやすくなったと考えられる.<br><br> <b>2.本研究の視点 </b> <br>&nbsp; 本研究では,特定地方交通線から第三セクター鉄道へ転換された路線とその沿線に着目し,「地域が鉄道に与える影響」を考察するという立場で, 小地域統計をGISで分析するなどの基礎的作業の上で現地調査を行い,第三セクター鉄道の存立基盤について明らかにし,その将来を展望することを試みた.その結果,以下の点が明らかとなった.<br><br><b>3.結果<br></b>&nbsp; 調査対象各社の収支状況は,①鉄道事業はほぼ全社が赤字である.②兼業での収入が小規模ながら拡大しつつある.③鉄道事業での損失は横ばいかやや拡大傾向である.④補助金などによる特別利益によって損失が相殺されている. <br>&nbsp; 次に,各社の輸送人員は,①伊勢鉄道を除き全社が減少傾向である.②通学定期が大半を占め,通勤定期の割合が非常に低い.③定期輸送が減少し,定期外輸送の割合が増加している.<br> また,2000年から2010年にかけて沿線人口は減少しており,特に高校生にあたる15~19歳人口が30%以上減少している沿線もある.<br>&nbsp; さらに各路線の沿線で急速な高齢化が進行している. 現地調査の結果,これらの事業者では車両更新費用が大きな負担であり,その費用を捻出できるかが存続の大きな条件になりうることが分かった.各社への聞き取りの結果,車両購入費用の多くが沿線自治体により肩代わりされ,事業者負担が軽減されていることが分かった. また,各社ともこれまで収入面で依存してきた高校生の減少に伴い,定期外輸送を増加させることを目指し,観光需要の掘り起こしを図っているほか,鉄道事業での損失を補てんするために,グッズ販売や旅行業の活性化など付帯事業での増収を図っている.<br><br><b>4.考察</b><br>&nbsp; 近年では,民間出身者が社長に就任し状況の打開に努力し,収支が改善する傾向がみられている事業者もある.その一方で,厳しい経営状況のため人材の確保が難しく,特に若い世代の社員が不足している.しかし現在,開業時からのプロパーの職員が経営の中心になりつつあり,さまざまな新しい企画を立案し運営している.この世代の活躍や,その次の世代を育てていくことが,今後観光需要を重視した経営を進めるうえで必要となっていくだろう.<br>&nbsp; 現状においては,第三セクター鉄道が自立した経営を行うことは困難である.当面,付帯事業の実施と観光需要の喚起で延命を図ることが,特定地方交通線から転換された第三セクター鉄道の目指すべき方向性であると考えられる.