著者
北田 沙織
出版者
近畿大学全学共通教育機構教養・外国語教育センター
雑誌
近畿大学教養・外国語教育センター紀要. 外国語編 = Kindai university center for liberal arts and foreign language education journal. Foreign Language edition (ISSN:2432454X)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.21-32, 2020-07-31

[抄録]Oscar Wilde の“The Happy Prince”(1888)は今なお読み継がれる名作童話でありながら、同性愛を称揚する物語とも解釈されてきた。しかし本論は、王子のジェンダーの揺らぎや両性具有性に注目し、「有用性(usefulness)」という概念に縛られていたつばめが王子との出会いによりその価値観を揺るがされ、同性・異性の枠組みを超えたより深い純粋な愛に身を投じる物語として本作品を捉える。本論では男性性と女性性を明確に区分しようとした19 紀末英国において、因襲的な「男性らしさ」と「女性らしさ」のジェンダーの境界を侵犯することで、固定化された性の在り方に異を唱え、異性愛/同性愛という区別や階層関係を否定する新たな愛の形をワイルドが模索していたことについて考察する。