著者
北野 収
出版者
久留米大学
雑誌
産業経済研究 (ISSN:03897044)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.341-373, 2007-12

社会運動における知識人の役割は古くて新しい研究課題である。現代のメキシコにおける脱開発志向の社会運動においても,知識人が重要な影響を及ぼしていると考えられる。イヴァン・イリイチは,1970〜1980年代,コンヴィヴィアリティ,ヴァナキュラー,ジェンダー等の概念を用いて産業文明をラディカルに批判した思想家である。グスタボ・エステバは,政府高官を経て,自ら設立したローカルNGOを拠点として,南部メキシコ・オアハカ州において,反グローバリズム・脱国家主義志向の草の根社会運動を指導する自称「脱プロ知識人」である。本稿では,メキシコを代表するこの2人の知識人の交流と対話の軌跡を,文献およびエステバと筆者との対話を手がかりに明らかにする。そして,現役の社会運動家でもあるエステバの学習の過程,NGOを通じた彼らの実践活動とイリイチ思想との関連性を検証した。知識人が創出する思想・哲学は,時代を超えて,現場での実践活動に一定の影響と方向性を与えていることが確認された。