著者
高橋 堅 千田 佑介 丸山 智栄 佐々木 幸絵
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0647, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】訪問リハビリ(以下「訪問リハ」)では要支援1から要介護5までの回復期から生活期の利用者が対象となり,個々の利用者が目標とする機能や活動も広範囲に及ぶ。そのため,定型評価を行う場合,病院や老健で一般に使用されている評価指標で利用者の運動機能・能力・生活活動(以下「生活機能」)の変化を定量的にとらえるのは難しい。当院では院内研究で,当時使用していた定期・定型評価指標では利用者の生活機能の変化を数量化できていないことを明らかにし(2011),次年の院内活動で新たな生活機能評価指標を調査検討しBedside Mobility Scale(以下BMS),機能的自立度評価法(以下FIM),E-SAS,豊浦フェイスアナログスケール(以下T-FAS*)を併用することとした(2012)。今回の研究活動の目的は,決定した新たな生活機能評価指標を実際に運用し,当院訪問リハでの使用が妥当かどうかを検証することである。(*T-FAS:フェイススケールとVASを応用した当院独自の利用者による自己評価指標)【方法】当院訪問リハ利用者のうちPT・OTが介入している全利用者を対象とし,7か月間指定の評価指標(BMS,FIM,E-SAS,T-FAS)を運用した。並行して,当院のリハ科スタッフによりデルファイ法*を用いて各評価指標が適当かを判断するための評価項目を決定した。①評価時間②再現性③訪問リハの目標との関連性④全体像の把握に役立つか⑤状態変化が数量変化として表れるか⑥目標の達成度が家族・本人にわかりやすいか,の6項目で,これらにより各評価指標を5段階評価した。再びデルファイ法を応用し,5段階評価-討論-再評価を期間をおいて3度繰り返して各評価指標の運用妥当性を検証した。(*デルファイ法:意見を聞くべき人に自由に討論してもらった結果をフィードバックしながら結論を詰めていく方法)【結果】4つの評価指標の検証結果として,BMSでは「評価時間が短く,再現性が高い」「目標との関連性の低い対象者も多い」「天井効果で変化が現れない対象者も多い」となった。FIMでは「評価時間が長く家族・利用者にわかりにくい」「全体像の把握に役立つ」「目標との関連性は対象者による」「天井効果・床効果で変化が現れない対象者も多い」となった。E-SASは「評価項目が多く,項目によっては評価時間が長い」「目標との関連性は対象者による」「床効果で変化の現れない対象者も多い」「検者間の再現性が得られにくい」となった。T-FASは「簡便で利用者・家族にもわかりやすい」「心理面の変化も数量変化として表れる」「説明の仕方で再現性が左右されやすい」「目標との関連性は高いが全体像の把握には不向き」「利用者・家族の主観的評価として使用できる」となった。【考察】評価指標の運用方法は,3か月ごとにT-FASで目標生活機能についての自己評価をしてもらい,同時に利用者の生活機能レベルに応じてBMS,FIM,E-SASの中から目標に適合した指標を選び客観的評価を行うのに加え,訪問開始時と終了時には全員にFIMも使うというものである(2012)。今回この方法を運用してみると,FIMとT-FASの組み合わせでは,FIMで低かった評価項目をT-FASで補うことができ,BMSとT-FASの組み合わせでは,BMSの低かった評価項目をT-FASで補うことができることが示された。E-SASとT-FASの組み合わせでは,どちらも全体像の把握がしづらく再現性が低かったが,FIMを加えることで全体像の把握ができ再現性が得られていることが示された。これらより,個々の評価指標で見ると十分ではない評価項目もあるが,各評価指標を組み合わせて使用することで評価項目をすべて満たすことが示された。また,T-FASを使うことで,これまで行われてこなかった「患者報告アウトカム(PRO)」による評価も行われた。これらのことから,現在使用している生活機能評価指標とその運用方法が,当院訪問リハにとって妥当であると考えられる。今後は評価実績を積み,データベース化することで当院訪問リハの効果検証に繋げていきたいと考えている。また,個々の利用者に対してFIM,BMS,E-SASのような客観的な生活機能評価と,T-FAS,E-SASの一部のような主観的な生活機能評価の結果を比較して,定期的に行っているリハ目標の見直しにも役立てていきたい。【理学療法学研究としての意義】定型的評価でのアウトカムの数量化が難しい訪問リハの効果の有無を,複数の評価指標を併用することによってある程度明確に示せることが示唆された。この運用方法は,訪問療法士にとってはより質の高いリハビリの遂行につながり,同時に,対外的には訪問リハの効果を示すことが可能なツールになると思われる。