著者
高橋 堅二
出版者
地域安全学会
雑誌
地域安全学会論文報告集
巻号頁・発行日
no.1, pp.79-87, 1991-05

昭和51年8月「東海地震説」が発表されて以後、静岡県では県民と一体となった東海地震対策が推進されてきた。その一環として、県では東海地震に対する県民意識を隔年毎に、又県政世論調査においても一部地震関係の調査を実施している。これにより、県民の意識や実態、経年的な変化を把握し、地震防災に係る施策を検討する基礎資料としている。以下は、この調査資料をもとに分析した「県民の防災意識変化」の要旨である。1 県民意識の変化分析(1)東海地震に対する関心度58年度から6年間の経過で関心層が約7%減少しており、ゆるやかな意識低下を続けている。男女別、年代別においては大差ないが、地区別では東部における関心層の減少率が低い。これは、これまで年中行事のごとく発生していた伊豆半島東方沖の群発地震や平成元年7月の海底噴火のためと思われる。県政世論調査による「地震発生後の行動についての話し合いの有無」においても、同様な傾向が見られる。しかし、「東海地震説」発表以前の昭和46年度における調査では61.1%と高い結果を見るが、これは、44年11月「駿河湾から遠州灘沖での地震発生の可能性大」との発表が、県民にかなりの動揺を与えていた結果と思われる。(2)家庭内対策の実施状況(1)家族の話し合いが必要と思われる対策項目について、わずかづつ低下しているが、これは(1)の関心度と相関があり、地震に関する話題が家庭内で減少していることを表している。(2)「出火防止対策」の項目では他より実施率が高いものの、やや低下を示すのは、種々の安全装置の普及によるものと思われる。(3)「家具の固定」「食料・飲料水の備蓄」等では、販売商品の多様化によるためか、実施率の上昇を示す。2 イベントと意識変化元年度の県民意識調査によれば、伊東、熱海両市を中心とした東部地区の「関心度」「家具の固定」が他地区に比較し高い結果を示している。この結果が平成元年発生した群発地震から海底噴火にいたる一連の現象によることは明らかであり、イベントとの遭遇が意識変化と大きくかかわっていることが分かる。中西部においては、51年度目立ったイベントがなく静穏であることが、家庭内対策必要性の認識を弱めている。3 意識低下の要因と今後の対策防災意識を低下させている要因は種々考えられるが、中でも、「日本(特に東海地震予想震源域)において、近年、大きな地震がない」ことが最大であろう。今後、適度な揺れを待つことができない以上、県民が東海地震に対する正しい認識を身につけると共に、地震に備えた日頃の家庭内対策の重要性を認識するよう、県・市町村一体となった啓蒙、啓発活動を繰り返し展開していく必要がある。
著者
三羽 兼義 萩原 三夫 高橋 堅太郞
出版者
医学書院
雑誌
臨床外科 (ISSN:03869857)
巻号頁・発行日
vol.3, no.12, pp.474-476, 1948-12-20

緒言 重篤なる瓦斯壞疽症,身體各部の化膿炎衝,或は廣汎なる火傷等に續發する全身中毒症状の發現に際して,私共1)は積極的に病竈部よりの主幹靜脈を結紮して甚だ滿足すべき結果を得,既に屡々報告して批判を乞ふた。 茲に報告する症例は,濃硫酸の爆發によつて殆ど全身に亙る腐蝕性熱傷を蒙り,最初から豫後不良を想はしめた症例である。果して受傷の翌朝から全身中毒症状が漸次甚しくなり。午後になつてからは,高熱と共に尿閉,意識溷濁,譫語等の重篤症状が相次で起り,脈壓遽かに衰え,橈骨動脈の搏動を辛うじて感ずる程度となつた。これに對し輸血,その他の強心法を試みるも殆ど見るべき效を奏しなくなつたので,腐蝕程度の最も高度である全下肢よりの毒素吸收を遮斷する目的を以て,兩側鼠蹊靱帶直下に於て大薔薇靜脈を含む股靜脈根部を完全結紮することによりて,奇蹟的に病勢を好轉せしめ得たものである。爾後の經過は極めて順調となり,生命の危險を脱したのみならず,創傷治癒の經過も亦極めて良好となつた。
著者
高橋 堅 千田 佑介 丸山 智栄 佐々木 幸絵
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0647, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】訪問リハビリ(以下「訪問リハ」)では要支援1から要介護5までの回復期から生活期の利用者が対象となり,個々の利用者が目標とする機能や活動も広範囲に及ぶ。そのため,定型評価を行う場合,病院や老健で一般に使用されている評価指標で利用者の運動機能・能力・生活活動(以下「生活機能」)の変化を定量的にとらえるのは難しい。当院では院内研究で,当時使用していた定期・定型評価指標では利用者の生活機能の変化を数量化できていないことを明らかにし(2011),次年の院内活動で新たな生活機能評価指標を調査検討しBedside Mobility Scale(以下BMS),機能的自立度評価法(以下FIM),E-SAS,豊浦フェイスアナログスケール(以下T-FAS*)を併用することとした(2012)。今回の研究活動の目的は,決定した新たな生活機能評価指標を実際に運用し,当院訪問リハでの使用が妥当かどうかを検証することである。(*T-FAS:フェイススケールとVASを応用した当院独自の利用者による自己評価指標)【方法】当院訪問リハ利用者のうちPT・OTが介入している全利用者を対象とし,7か月間指定の評価指標(BMS,FIM,E-SAS,T-FAS)を運用した。並行して,当院のリハ科スタッフによりデルファイ法*を用いて各評価指標が適当かを判断するための評価項目を決定した。①評価時間②再現性③訪問リハの目標との関連性④全体像の把握に役立つか⑤状態変化が数量変化として表れるか⑥目標の達成度が家族・本人にわかりやすいか,の6項目で,これらにより各評価指標を5段階評価した。再びデルファイ法を応用し,5段階評価-討論-再評価を期間をおいて3度繰り返して各評価指標の運用妥当性を検証した。(*デルファイ法:意見を聞くべき人に自由に討論してもらった結果をフィードバックしながら結論を詰めていく方法)【結果】4つの評価指標の検証結果として,BMSでは「評価時間が短く,再現性が高い」「目標との関連性の低い対象者も多い」「天井効果で変化が現れない対象者も多い」となった。FIMでは「評価時間が長く家族・利用者にわかりにくい」「全体像の把握に役立つ」「目標との関連性は対象者による」「天井効果・床効果で変化が現れない対象者も多い」となった。E-SASは「評価項目が多く,項目によっては評価時間が長い」「目標との関連性は対象者による」「床効果で変化の現れない対象者も多い」「検者間の再現性が得られにくい」となった。T-FASは「簡便で利用者・家族にもわかりやすい」「心理面の変化も数量変化として表れる」「説明の仕方で再現性が左右されやすい」「目標との関連性は高いが全体像の把握には不向き」「利用者・家族の主観的評価として使用できる」となった。【考察】評価指標の運用方法は,3か月ごとにT-FASで目標生活機能についての自己評価をしてもらい,同時に利用者の生活機能レベルに応じてBMS,FIM,E-SASの中から目標に適合した指標を選び客観的評価を行うのに加え,訪問開始時と終了時には全員にFIMも使うというものである(2012)。今回この方法を運用してみると,FIMとT-FASの組み合わせでは,FIMで低かった評価項目をT-FASで補うことができ,BMSとT-FASの組み合わせでは,BMSの低かった評価項目をT-FASで補うことができることが示された。E-SASとT-FASの組み合わせでは,どちらも全体像の把握がしづらく再現性が低かったが,FIMを加えることで全体像の把握ができ再現性が得られていることが示された。これらより,個々の評価指標で見ると十分ではない評価項目もあるが,各評価指標を組み合わせて使用することで評価項目をすべて満たすことが示された。また,T-FASを使うことで,これまで行われてこなかった「患者報告アウトカム(PRO)」による評価も行われた。これらのことから,現在使用している生活機能評価指標とその運用方法が,当院訪問リハにとって妥当であると考えられる。今後は評価実績を積み,データベース化することで当院訪問リハの効果検証に繋げていきたいと考えている。また,個々の利用者に対してFIM,BMS,E-SASのような客観的な生活機能評価と,T-FAS,E-SASの一部のような主観的な生活機能評価の結果を比較して,定期的に行っているリハ目標の見直しにも役立てていきたい。【理学療法学研究としての意義】定型的評価でのアウトカムの数量化が難しい訪問リハの効果の有無を,複数の評価指標を併用することによってある程度明確に示せることが示唆された。この運用方法は,訪問療法士にとってはより質の高いリハビリの遂行につながり,同時に,対外的には訪問リハの効果を示すことが可能なツールになると思われる。