著者
土井 宣夫 佐々木 信良 千葉 幸也 岩舘 晋
出版者
岩手大学教育学部
雑誌
岩手大学教育学部研究年報 (ISSN:03677370)
巻号頁・発行日
no.74, pp.27-49, 2015-03-15

栗駒山は,過去1万年間および100年間の火山活動度にもとづく気象庁の活火山区分によると,ランクB に属する火山である。栗駒山は,1744年と1944年に噴火の記録がある(気象庁編,2005,2013;及川,2012)。1744年噴火では,水蒸気爆発による火山泥流が発生し,岩手県磐井川を流下して下流域で氾濫した。この後,磐井川を温泉水が流れ,河川水を利用していた一関市内の用水・水田で硫黄臭があった。また,1944年噴火では,小規模な水蒸気爆発の後,昭和湖火口から強酸性水が流出し,その後,須川温泉源泉からの流出にかわって,磐井川流域から北上川の一部では,3年間にわたって酸性水被害に悩まされた(土井,2006ほか)。このような噴火災害の実績からみて,将来の栗駒山噴火において,同様な被害の発生が予測されることから,一関市は,噴火に備えた取組みの必要性が高い。栗駒山北側山腹の昭和湖を含む地域は,完新世に噴火を繰り返してきた地域で,現在も噴気活動が活発である(土井,2006;図1a)。1994年には,昭和湖付近で火山ガスの影響による植物の枯死が確認され,その後,植物の枯死は周辺地域に拡大し続けた。さらに,昭和湖の湖底および湖岸から湧出する火山ガスは,湖水に溶解して白濁化させるようになった。この白濁度が次第に増したことから,火山活動の推移が注目された(土井, 2008)。また,国土地理院が栗駒山南山腹耕英地点に設置した電子基準点(GPS)では,2004年から南東方向への移動と隆起が観測された(国土地理院,2009,2010)。この地殻変動の発生原因として,栗駒山直下のマグマ溜りの膨張による可能性と,活断層の前兆すべりによる可能性が指摘された(村上,2008)。こうした火山活動の状況から,栗駒山の監視強化の必要性が認められ,気象庁は2006年10月から耕英で新たに地震観測を開始した。