著者
鎌田 佳伸 千葉 真澄 亘 麻希 江端 美和
出版者
一般社団法人 日本家政学会
雑誌
一般社団法人日本家政学会研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.61, pp.37, 2009

<B>目的:</B>刺繍ミシンの縫い機構は本縫いミシンと同じであるが、ステッチ長の変化が大きく、前後・左右・斜めと種々の方向に縫いが行われるので縫いは極めて過酷である。縫い方向で縫目形成状況が変わるとすれば、それは光沢にも影響を及ぼすことが考えられる。したがって、よりよい光沢を得るためには先ずは縫目形成の実態調査が必要であると考える。本研究では、送り方向による縫目形成の差異について、糸締まり率と動的上糸張力の測定から検討した。なお、刺繍枠の送り方向は左右に限定した。刺繍ミシンはジャノメメモリークラフト10001、設計用ソフトはデジタイザープロ、刺繍糸は♯50ジャノメ刺繍糸(アクリル、濃い緑色(品番206))を用いた。実験要因にはステッチ長と縫い速度を採用した。<BR><B>結果:</B>糸締まり率:本研究において縫目は下締まり状態にある。その中で、枠が左へ移動する時は刺繍として適正な縫目形成状態にあると思われるのに対して、右へ移動する時は過剰に縫い目がゆるんでいた。これは顕微鏡観察でも確認されている。ピーク引締張力の変動は刺繍枠が左に移動する場合に対して右方向に動く場合は大きい。したがって、枠が右よりも左へ移動する時の方が安定した良い縫目形成となる。なお、ピーク引締張力の大きさの左右差はステッチと縫い速度の両者で差が認められなかった。<BR><B>結論:</B>糸締まりの左右差は縫い方の違いに由来すると考えられる。すなわち、枠が左へ移動する時のパーフェクトステッチに対して、右に移動する時のヒッチステッチでは上糸張力による下糸の引き上げが不十分となり糸調子皿から余分な上糸の引き入れが行われるために上糸がゆるむと推測される。