著者
千野 美和子
出版者
仁愛大学
雑誌
仁愛大学研究紀要 (ISSN:13477765)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.99-108, 2006-12-30

昔話に登場する水について,グリムメルヘンと日本昔話から,物語に表現された水を取り出し,物語の展開の中で,どのようなイメージとして語られているかを考察する.まず,グリムメルヘンに現れた水の表現を取り上げる.その表現を,死につながる水,異界としての水・異界の通路としての水,2つの世界を分かつ水や障害物としての水,不思議な力をもつ水,何かが起きる場としての水,その他の6つに分けて,そのイメージについて検討する.次に,日本昔話に現れた水の表現についても,同様に分けて検討し,グリムメルヘンと比較しながら,水のイメージについて検討する.昔話に現れた水は,当時の人が抱いた水のイメージであるとともに,意識から見た水のイメージが表現されていると思われた.
著者
千野 美和子
出版者
仁愛大学
雑誌
仁愛大学研究紀要 (ISSN:13477765)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.25-35, 2006-03-31

心理療法において,夢や,遊び,箱庭表現の中に,水のイメージが現れることがある.その水のイメージに注目して,心理療法のプロセスをみると,意味深い展開が生じていることが多い.イメージは,多義性を持つものであり,水のイメージといっても,多様である.しかし,その中に,筆者はこころを治癒する治療的イメージが存在するのではないかと考える.本論文では,水の創世神話と,Eliadeの水のシンボル,Bachelardの物質的想像力としての水を概観し,次に,心理療法に関わって述べられる水のイメージについて,Jungを中心に,治療的イメージを探る.
著者
千野 美和子
出版者
仁愛大学
雑誌
仁愛大学研究紀要 (ISSN:13477765)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.1-11, 2007

幸福な結末で終わる日本の昔話『たにし長者』と『手なし娘』を取り上げ,グリムメルヘンと比較しながら,その昔話の底に流れる日本人のこころのあり方,精神性を考察する.まず,『たにし長者』では,同じタイプのグリムメルヘンの『ハリネズミのハンス坊や』と比較した.グリムの物語は,呪いの言葉から生れた主人公の呪いをいかに解くかが中心のテーマであり,それは主人公の救済の物語である.それに対して,日本の物語の主人公は祈りから生れた.神への祈りと信仰が中心のテーマであり,信仰による神からの祝福の物語である.そこから,この信仰を支える心のあり方,精神性について考察した.つぎに『手なし娘』では,同名のグリムメルヘンを取り上げ,信仰のありかたの違いについて考察した.グリムのそれは神に対する信仰が強調され,その信仰の証として奇蹟が述べられるのに対し,日本のそれでは,人の心情の交流を中心に物語が展開し,その延長線上で生じた無心の行為に対して奇蹟が語られる.そこから,こころのあり方としての宗教性について考察した.