著者
宮川 雅充 濱島 淑恵 南 多恵子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.125-135, 2022-02-15 (Released:2022-03-02)
参考文献数
29

目的 日本においても,家族のケアを担っている子ども(ヤングケアラー)が相当数存在することが指摘されている。しかしながら,ケア役割の状況が彼らの精神的健康に与える影響に関する調査研究はほとんど行われていない。本研究では,高校生を対象に,精神的苦痛とケア役割の状況との関連を分析し,ケア役割がヤングケアラーの精神的健康に与える影響について検討した。方法 埼玉県の県立高校(11校)の生徒4,550人を対象に質問紙調査を行った。調査では,家族の状況とともに,彼らの担うケア役割の状況を尋ねた。また,Kessler 6項目精神的苦痛尺度(K6)の質問も尋ねた。なお,高校生が質問内容を容易に理解できるように,K6の公式日本語版の一部に変更を加えたものを用いた。精神的苦痛とケア役割の状況との関連を,交絡因子の影響を調整した回帰分析(重回帰分析および順序ロジスティック回帰分析)により検討した。結果 本質問紙調査では,3,917人から有効回答を得た。本稿では,分析で使用する変数に欠損値がなく,年齢が15歳から25歳であった3,557人を分析対象とした。なお,3,557人のうち19歳の者は23人(0.6%),20歳以上の者は5人(0.1%)であった。34人(1.0%)が幼いきょうだい(障がいや疾病等はない)のケアを担っていた(ヤングケアラーA)。また,190人(5.3%)が,障がいや疾病等のある家族のケアを担っていた(ヤングケアラーB)。残りの3,333人(93.7%)は,家族のケアを行っていなかった(対照群)。2つの回帰分析は,同様の結果となり,いずれの分析においても精神的苦痛とケア役割の状況との間に有意な関連が認められた(それぞれ,P=0.003,P<0.001)。順序ロジスティック回帰分析の結果では,ヤングケアラーBの精神的苦痛(K6)のオッズ比は1.572であり,対照群と比較して有意に高かった(P<0.001)。一方,ヤングケアラーAの精神的苦痛(K6)のオッズ比は1.666であり,対照群との間に有意な差は認められなかった(P=0.084)が,オッズ比は対照群よりも高く,ヤングケアラーBと近い値であった。結論 ケア役割がヤングケアラーの精神的健康に影響を及ぼすことが示唆された。