著者
南渕 明宏
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.81, no.5, pp.414-420, 2021 (Released:2022-01-18)
参考文献数
41

2020年,世界人類を襲ったコロナ禍でわれわれは感染症に対するヒト個体の脆弱性のみならず,社会システムや政体の無防備さを認識させられた.今後も起こり得る感染症による災厄をもたらすものは何もウィルスに限ったことではない.さて,わが国は豊富な水資源に恵まれ,山間の渓谷に名水を求める文化風習がある.しかし本項で事例をあげ述べるように,水系がもたらす食中毒は厳然と存在する.水系を介した一次感染,いわゆる水系感染の中でも,とりわけカンピロバクター,大腸菌,レジオネラ,病原性原虫,ノロウイルスについてはわれわれの日常生活の中で「今そこにある危機」であるにもかかわらず,充分に認識されているとは言い難い現状がある.安易な取水による感染の他,偶然にも,あるいは認識不足により,自然環境から近代的浄化システムを逸脱した飲用水確保で健康被害を呈した事例は数多く報告されている.降雨による流況の変化により,自然環境の病原微生物の生態は影響を受け,それらが水系に侵入して飲用水に混入し,甚大な健康被害が生じる可能性が常に存在する現実を社会も医療人も認識すべきである.