著者
樋口 慧 松田 晋哉 大嶽 浩司
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.75, no.3, pp.353-361, 2015 (Released:2015-11-21)
参考文献数
24

病院あたり手術数の手術アウトカムへの影響(volume-outcome relationship(VOR))については,手術数が多い病院ほどアウトカムが良いという報告が多いものの,関連がないとの報告もあり,その真偽ははっきりしない.本研究では,日本の診療報酬に用いられるDPC(Diagnosis Procedure Combination)データベースを用いて,大腸癌切除術に関して病院あたり手術数と在院死亡率,術後在院日数との相関を検証した.2007年,2008年の7月から12月までに大腸癌切除術を施行した患者51,878人を,病院あたり手術数の少ない順にlow群 (L群),medium-low群 (M-l群),medium-high群 (M-h群),high群 (H群)の4群に分類した.各群の患者数はほぼ同数となるよう手術数のカットラインを設定した.性別,年齢,既往歴の患者要因,術式と病院あたり手術数に関してχ2検定・分散分析を実施し,ロジスティック回帰分析・Cox比例ハザードモデルを用いて病院あたり手術数の在院死亡,術後在院日数への影響を検証した.患者要因・術式を調整してVORを見ると,L群と比較した場合,手術が多くなる順に在院死亡のオッズ比は低くなった(M-l群,M-h群,H群の順にOdds Ratio (OR) 0.87,0.73,0.53).術後在院日数は,L群からH群の順に,26.7日,22.7日,20.8日,18.3日となり,L群と比較するといずれの群も有意差を認めた(p<0.001).DPCデータを用いた本研究では,大腸癌切除術において病院あたり手術数が多いほど,有意に低い在院死亡率,短い術後在院日数が認められた.このメカニズムに関して,実践による学習効果,選択的に治療成績のよい病院に患者が集まることなどが示唆されている.本研究では診療報酬データベースの特性から患者要因と術式要因を充分に調整しきれていない可能性があり,さらなる検討の余地が残る.
著者
沖野 和麿 塩沢 英輔 佐々木 陽介 田澤 咲子 野呂瀬 朋子 本間 まゆみ 矢持 淑子 楯 玄秀 瀧本 雅文
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.76, no.1, pp.35-42, 2016 (Released:2016-11-26)
参考文献数
20

BRAF (V600E) 遺伝子変異に基づくBRAF (VE1) 蛋白発現は甲状腺乳頭癌において予後不良因子と報告される.BRAF (V600E) 遺伝子はRAS-RAF-MARKシグナル伝達を介し細胞増殖を制御する.BRAF分子標的療法は悪性黒色腫で実用化されている.甲状腺癌とホルモン作用に関する研究において,甲状腺癌発生にエストロゲン, プロゲステロンの関与が示唆される.われわれは甲状腺癌について,BRAF (VE1),Estrogen Receptor (ER),Progesterone Receptor (PgR) の蛋白発現の臨床的意義を検討した.昭和大学病院において病理診断された甲状腺乳頭癌59例,甲状腺濾胞癌3例,甲状腺低分化癌3例,甲状腺未分化癌4例,腺腫様甲状腺腫46例を用いた.パラフィン包埋切片に抗BRAF (V600E) 抗体,抗ER抗体,抗PgR抗体を用いて免疫染色を行った.BRAF (VE1) 発現は甲状腺乳頭癌では40例 (68%) に認められた.腺腫様甲状腺腫にはBRAF (VE1)発現は見られなかった.BRAF (VE1) 陽性群と陰性群で性別,腫瘍径に有意な差は見られなかったが,発症年齢45歳以上に有意に多かった(P=0.017).PgR発現は甲状腺乳頭癌では陽性32例 (54%),陰性27例 (46%) だった.腺腫様甲状腺腫は陽性12例(26%),陰性34例(74%)だった.甲状腺乳頭癌におけるPgR陽性例は,女性に多い傾向が見られた (P=0.057).甲状腺乳頭癌におけるBRAF (VE1) 発現とPgR発現に相関は見られなかった (P=1.000).BRAF (V600E) 遺伝子変異に対するBRAF (VE1) 蛋白発現は相関性が示されており,腫瘍のBRAF (VE1) 蛋白発現を検討することで,BRAF (V600E) 遺伝子変異の状態を評価することが可能である.腺腫様甲状腺腫ではBRAF (VE1) 陽性例は認められず,甲状腺乳頭癌におけるBRAF (VE1) 免疫染色陽性は,腺腫様甲状腺腫ではなく,乳頭癌と判断できる所見といえる.甲状腺乳頭癌において45歳以上でBRAF (VE1) の発現が有意に多く,予後不良因子である年齢 (45歳以上) との統計学的な相関が見られたことは.BRAF (VE1) 発現が臨床的予後因子である発症年齢と相関し,予後を規定する因子である可能性が示唆された.BRAF分子標的療法の適応拡大が期待される中,BRAF (V600E) 遺伝子変異とそれに伴うBRAF (VE1)蛋白発現を伴う甲状腺乳頭癌は,その有力な候補と考えられる.今回の検討で,BRAF (VE1) 蛋白発現は甲状腺乳頭癌のおよそ7割に認められる特異的所見であることが明らかとなり,甲状腺癌へのBRAF分子標的療法の拡大のための基礎的研究として,臨床病理学的に有用な知見であると考えられた.
著者
福島 正也 砂川 正隆 片平 治人 渡辺 大士 草柳 肇 小林 喜之 樋口 毅史 久光 直子 久光 正
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.75, no.3, pp.312-319, 2015 (Released:2015-11-21)
参考文献数
30
被引用文献数
2

円皮鍼は鍼治療に用いられる鍼の一種で,1mm前後の極めて短い鍼を絆創膏で皮膚に留置することによって,種々の生体の反応を引き出す.本研究では,ラット社会的孤立ストレスモデルを用い,ストレスに対する円皮鍼の効果を調べ,作用機序の検討としてオレキシン神経系の関与を検討した.8週齢Wistar系雄性ラットを使用し,コントロール群(Con群),ストレスモデルにシャム鍼を貼付した群(Sham群),ストレスモデルに円皮鍼を貼付した群(PTN群)の3群に分けた.社会的孤立ストレスモデルは8日間単独で飼育することで作製した.Con群は1ケージに3~4匹で飼育した.ストレス負荷7日目,PTN群とSham群には百会穴相当部への円皮鍼(パイオネックス®,セイリン社製)またはシャム鍼を貼付した.ストレス評価として,噛みつき行動時間の測定(7日目と8日目)と,EIA法にて血漿コルチコステロンの測定を行った.また,オレキシン神経系の関与を検討するために,EIA法にて血漿オレキシンA濃度を測定し,外側視床下部におけるオレキシンニューロンの変化を組織学的に検討した.ストレス負荷8日目,10分間の噛みつき行動時間は,Sham群(460.2±24.2秒)に対し,PTN群(263.3±53.7秒)で有意に抑制された(p<0.01).血漿コルチコステロン濃度は,Con群(44.0±8.2ng/ml)に対しSham群(128.6±26.4ng/ml)では有意に増加したが,PTN群(73.5±8.9ng/ml)ではその増加が有意に抑制された(P<0.05).血漿オレキシンA濃度は,Con群(0.17±0.01ng/ml)に対しSham群(0.36±0.04ng/ml)では有意に増加したが,PTN群(0.23±0.03ng/ml)ではその増加が有意に抑制された(P<0.05).外側視床下部におけるオレキシンAの発現もCon群(26.88±3.03 Optical Density:OD)に対しSham群(80.89±6.03 OD)では有意に上昇したが,PTN群(49.87±1.84 OD)ではその上昇が有意に抑制された.百会穴への円皮鍼治療は,ラット社会的孤立ストレスモデルにおけるストレス反応を抑制し,視床下部オレキシンニューロンの活性を抑制した.ストレスによる交感神経系や内分泌系の興奮に視床下部オレキシン神経系が関与することが報告されている.円皮鍼治療はオレキシン神経系を抑制することにより,ストレス反応を抑制したと考えられる.
著者
西田 幸典 佐藤 啓造 藤城 雅也 根本 紀子 足立 博 岩田 浩子 米山 裕子 李 暁鵬 松山 高明 栗原 竜也 藤宮 龍祥 浅見 昇吾
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.78, no.2, pp.168-182, 2018 (Released:2018-09-11)
参考文献数
27

今日の在宅看取りは,地域の診療所医師が大部分を担っているが,2040年をピークとする多死社会の看取り体制として,それが適切に機能するかの問題がある.そこで,本研究は,診療所医師の在宅看取りにおける負担軽減策として,看護師による死亡診断および死亡診断書の作成について,多死社会を担う若年層の認識を踏まえて,その是非を法医学的観点から考察するものである.研究方法は,質問紙調査(対象:医学生242名,一般学生402名)と看取り制度に関する文献調査である.質問紙調査の結果は,看護師による死亡診断について,看護師のみが死亡に立ち会う状況で是認する割合が高く,死亡診断について研修を受けて試験に合格した看護師が良いとする割合が高かった.また看護師による死亡診断書の作成について,看護師のみが死亡に立ち会う状況で是認する割合が高く,死亡診断書の作成について研修を受けて試験に合格した看護師が良いとする割合が高かった.しかし,死亡診断を是認する割合は,死亡診断書の作成を是認する割合よりも高かった.一方,医療制度改革の潮流には,①医師の働き方の見直しとしてタスク・シフティングの提案,②看護師の特定行為の創設,③地域包括ケアシステムの推進,④欧米における看護師による死亡確認の現状がある.本研究では,上記の調査結果と医療制度改革の潮流を踏まえ,診療所医師の負担軽減策の一つとして,看護師による死亡診断を,①特定行為の一つとする方法と ②保健師助産師看護師法の「診療の補助」とは別の新たな枠組みとする方法を提案する.一方,看護師による死亡診断書の作成については,原則として時期尚早と考える.しかし,診療所医師の負担軽減および死後のエンゼルケアやグリーフケアの実施の観点から,末期がん患者のような特定の患者に限定し,かつ,死亡診断書の作成プロセスの一つである異状死でないとの判断までであれば検討の余地があると考える.ただし,これを実現するためには,異状死の判断を適切に行い得る程度の知識と技術を担保できる教育システムが必要不可欠であると考える.
著者
岡部 万喜 佐藤 啓造 藤城 雅也 入戸野 晋 加藤 礼 石津 みゑ子 小渕 律子 福地 麗 大宮 信哉 李 暁鵬 九島 巳樹
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.74, no.2, pp.190-210, 2014 (Released:2014-09-27)
参考文献数
25

近年,医療事故訴訟が絶対数の増加にとどまらず,相対的にも増加している.しかし,どのような事例で刑事責任を問われ,あるいは民事訴訟を提起されるかを,実際の裁判例と医療死亡事故解剖例の両面から分析した報告はみられない.本研究では医療訴訟が提起される確率の高い,医療死亡事故と重い後遺障害が残った事例の判例を分析するとともに,法医学講座で扱われた医療関連死の解剖12例を分析することにより,どのような事例で刑事責任を問われるか,あるいは高額な損害賠償を命じられるか,もしくは低額の慰謝料の支払いにとどまるか,さらに,まったく責任を問われないか,裁判と解剖の実際例の分析をもとに同種の事故発生および訴訟提起を予防することに重点を置いて検討した.その結果,まず判例の分析から,診療を拒否すると民事責任を問われる可能性があること,患者本人に詳細な病状説明が困難な,たとえば末期がんの事例では家族への説明義務を果たさないと民事責任を問われること,昭和末期から平成10年代にかけ癌の告知が家族主体から本人主体へと移行し,時代の変化に対応した告知を行わないと民事責任を問われること,その時点での医療水準に適った医療を行わないと民事責任を問われること,治療に際し,患者は医師に協力しないと損害賠償・慰謝料の支払いを受けられないこと,医療行為と患者の死亡との間の因果関係の存在が証明されなくても,医療水準に適った医療が行われていれば,患者がその死亡の時点で,なお生存していた可能性が証明されるときは医師が不法行為による損害を賠償する責任を負うこと,看護師の薬物誤認が原因の過誤であっても指示した医師も民事責任を問われる可能性のあること,医師の指示自体が誤っていても,それを医師に確認せず,そのまま処置をした看護師にも民事責任が問われること,医療過誤刑事裁判では「疑わしきは罰せず」という刑事裁判の鉄則が適用されず,被告の過失というより医療機関の設備や医療システムの問題が主因の場合でも直接,医療行為に当たった医師,看護師が刑事処罰される危険性があること,重大な過誤の場合,主治医だけでなく,指導医,さらに診療科長まで刑事処罰される危険性があることなどが明らかとなった.次に,解剖例の分析から,事故および訴訟の予防対策として,医師は看護師から要請があったら必ず真摯に診察すること,医師は常に患者の急変の可能性を念頭におくこと,看護師も患者の病状を常に念頭に置き,当直医に連絡して診察がないときは主治医まで連絡すること,医師は必要でない治療を行わないこと,医師は自分の専門領域の疾患だけにとらわれず,患者の全身,心の中まで診ること,腹痛や頭痛を訴える患者には医師も看護師も特に慎重に対応することなどが挙げられた.以上の結果から,民事訴訟の発生を防ぐには,医師や看護師らの医療従事者は至誠一貫の精神のもと,常に患者および家族に対して誠実に対応するとともに,医療従事者間の壁を取り除き,チーム医療によるダブルチェックシステムを構築することが肝要であると考えられる.
著者
渡辺 大士 砂川 正隆 片平 治人 金田 祥明 藤原 亜季 山﨑 永理 髙島 将 石野 尚吾 久光 正
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.77, no.2, pp.146-155, 2017 (Released:2017-10-03)
参考文献数
34

加味逍遥散は,柴胡,芍薬,蒼朮,当帰,茯苓,山梔子,牡丹皮,甘草,生姜,薄荷の10種の生薬から構成される漢方薬であり,比較的体力の低下した,精神不安やイライラなどの精神神経症状を有する人の全身倦怠感,のぼせ,寒気,種々の身体痛,食欲不振,好褥的傾向などの症状に用いられている.近年,オレキシンがストレス反応の制御に関与することが明らかになってきた.オレキシンは神経ペプチドの一種で,オレキシン産生神経は主に視床下部外側野および脳弓周囲に存在するが,その軸索は小脳を除く中枢神経系全域に分布し,摂食行動や覚醒反応ほかさまざまな生理活性の制御に関与している.本研究では,ラット社会的孤立ストレスモデルを用い,加味逍遥散の抗ストレス作用,ならび作用機序の検討としてオレキシン神経系の関与を検討した.初めに,加味逍遥散がオレキシンの分泌に影響するのかを調べた.Wistar系雄性ラットに,100mg/kg/day,400mg/kg/day,1,000mg/kg/dayの3種類の用量の加味逍遥散を7日間連続で経口投与し,血漿オレキシンA濃度を測定した.Control群と比較し,100mg/kgならび400mg/kgの投与で有意な低下が認められたが,1,000mg/kgでは有意な変化は認められなかった.次に,ラットをグループ飼育群(Control群),孤立ストレス群(Stress群),ストレス+加味逍遥散(400mg/kg)投与群(Stress+KSS群)に分け,7日間の飼育後,攻撃性試験ならび血漿コルチコステロンならびオレキシンA濃度の測定を行った.Stress群ではControl群と比較し,攻撃行動を示す時間が有意に延長し,血漿コルチコステロンならびオレキシンA濃度も有意に上昇したが,Stress+KSS群ではこれらの変化は有意に抑制された.更には, いずれの生薬が主として作用しているのかを検討した.本研究では柴胡に注目し,柴胡単独投与で検証した.ラットをControl群,Stress群,ストレス+柴胡投与群(Stress+saiko)の3群に分け,血漿コルチコステロンならびオレキシンA濃度の測定を行った.Stress+saiko群では,これらの濃度の上昇が有意に抑制された.ストレス負荷によって,攻撃性が高まり,血漿コルチコステロンならびオレキシン濃度が上昇したが,これらの変化は加味逍遥散の投与によって抑制された.オレキシンが本モデル動物のストレス反応の発現に関与していることから,加味逍遥散の効果は,オレキシン分泌の制御を介した作用であり,柴胡が重要な働きをしていると考えられる.加味逍遥散は抗ストレス作用を有し,作用機序として,オレキシン分泌の制御が関与することが示唆された.

3 0 0 0 OA 薬剤性高血糖

著者
山本 剛史 平野 勉
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.75, no.4, pp.426-431, 2015 (Released:2016-01-23)
参考文献数
3
著者
佐賀 信之 森田 哲平 新井 豪佑 徳増 卓宏 幾瀬 大介 石部 穣 笹森 大貴 横山 佐知子 五十嵐 美紀 横井 英樹 岩波 明
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.76, no.6, pp.751-759, 2016 (Released:2017-06-08)
参考文献数
28

2014年4月より2015年3月までの1年間に昭和大学附属烏山病院を初診し,DSM-IV-TRの診断基準によってADHD(注意欠如多動性障害)と診断された成人ADHD患者54名(男性30名,女性24名,平均年齢29.4±7.9歳)を対象とした.うつ病など他の精神障害の診断を受けているものは被験者54名中4名であった.被験者らに知的な遅れはなく平均15年の高等教育を受けていた.全被験者に対し,次の評価尺度を施行した.抑うつ症状については,SDS(Self-rating Depression Scale)を,不安症状についてはSTAI(State Trait Anxiety Inventory),ADHD症状の程度については,CAARS-S(The Conners' Adult ADHD Rating Scales),自閉症スペクトラム障害の症状の程度についてはAQ(Autism-Spectrum Quotient),知的機能についてはJART(Japanese Adult Reading Test-25)で評価を行った.その結果,被験者らの抑うつ症状は日本人の神経症圏における抑うつの度合いと同程度であった.不安症状は,STAIの段階IVに相当する高い不安であった.自閉症的傾向は健常人より有意に高かった.項目間の相関をSpearmanの相関係数を用いて解析を行うと,ADHD症状と抑うつ症状の間には,弱いが有意な正の相関がみられた.ADHD症状と不安症状の間には,中程度の有意な正の相関がみられた.本研究の被験者の多くは気分障害や不安障害の診断を受けていないが,それでも,被験者が有する不安症状や抑うつ症状の程度は,健康人のそれと比して高いものであった.さらに,ADHD症状が強い場合,不安症状や抑うつ症状が強くなる可能性があることが示唆された.
著者
稲葉 寿
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.74, no.5, pp.535-542, 2014 (Released:2015-03-06)
参考文献数
14
著者
岩田 浩子:筆頭著者 佐藤 啓造:責任著者 米山 裕子 根本 紀子 藤城 雅也 足立 博 李 暁鵬 松山 高明 栗原 竜也 安田 礼美 浅見 昇吾 米山 啓一郎
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.78, no.2, pp.156-167, 2018-04 (Released:2018-09-11)

終末期医療における治療の自己決定は重要である.終末期医療における自己決定尊重とそれをはぐくむ医療倫理教育に関する課題を,安楽死・尊厳死の意識から検討する.われわれが先行研究した報告に基づき医学生と一般人と同質と考えられる文系学生を対象として先行研究(医学生と理系学生)と同じ内容のアンケート調査を行った.アンケートでは1)家族・自分に対する安楽死・尊厳死,2)安楽死・尊厳死の賛成もしくは反対理由,3)安楽死と尊厳死の法制化,4)自分が医師ならば,安楽死・尊厳死にどう対応するかなどである.医学生は安楽死・尊厳死について医療倫理教育を受けている230名から無記名のアンケートを回収した(回収率91.6%).文系学生は教養としての倫理教育をうけている学生で,147名から無記名でアンケートを回収した(回収率90.1%).前記5項目について学部問の意識差について統計ソフトIBM SPSS Statistics 19を用いてクロス集計,カイ二乗検定を行いp<0.05を有意差ありとした.その結果,家族の安楽死については学部間で有意差があり,医学生は文系学生と比較し医師に安楽死を依頼する学生は低率で,依頼しない学生が高率で,分からないとした学生が高率であった.自分自身の安楽死について医学生は医師に依頼する学生は低率で,依頼しない学生は差がなく,分からないとした学生は高率であった.家族の延命処置の中止(尊厳死)では,医学生と文系学生間で有意差を認めなかった.自分自身の尊厳死は,医学生は文系学生と比較し,医師に依頼する学生は低率で,かつ依頼しない学生も低率で,分からないとした学生が高率であった.もし医師だったら安楽死・尊厳死の問題にどう対処するかは,医学生は条件を満たせば尊厳死を実施すると,分からないが高率で,文系学生では安楽死を実施が高率で医学生と文系学生との間に明らかな差を認めた.法制化について,医学生は尊厳死の法制化を望むが多く,文系学生では安楽死と尊厳死の法制化を「望む」と「望まない」の二派に分かれた.以上より終末期医療における安楽死・尊厳死の課題は医学生と一般人と同等と考えられる文系学生に考え方の相違があり,医学生は終末期医療における尊厳死や安楽死に対して「家族」「自分」に関して医療処置を依頼しない傾向がある一方,判断に揺れている現状が明らかとなった.文系学生は一定条件のもとで尊厳死を肯定する意識傾向があった.医学生の終末期医療に関する意識に影響する倫理的感受性の形成は,医学知識と臨床課題の有機的かつ往還的教育方略の工夫が求められる.「自己」「他者」に関してその時に何を尊重して判断するかを医学生自身が認識することを通して,倫理的感受性を豊かにする新たな教育の質を高める努力が必要である.文系学生においても終末期医療の現実を知ることや安楽死・尊厳死を考える教育が必要であると思われた.
著者
小菅 正太郎 徳永 義郎 和田 悦洋 伊藤 勇 高橋 春男
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.74, no.2, pp.211-215, 2014

目的:イエロー着色アクリル眼内レンズ(IOL)のAN6K(KOWA社)は超音波乳化吸引術およびIOL挿入術において,術後屈折度がメーカー推奨A定数による予想屈折度よりも近視側にずれる.同レンズに対するA定数を算出した報告は未だ無く,今回AN6Kの当院パーソナルA定数を算出し検討を行った.対象:2008年7月より2009年4月までにAN6Kを嚢内に挿入後2か月以上経過観察し,超音波Aモード法およびIOLマスター<sup>TM</sup>の両方で眼軸長測定可能であり,その結果が22.0mm以上24.5mm未満の標準眼軸長眼で角膜乱視2D以内,矯正視力0.8以上を得られた46症例69眼.手術は複数の術者が施行し,IOL度数の計算式はSRK/T式を使用した.結果:術後屈折誤差(平均±標準偏差)はAモード法-0.41±0.57D,IOLマスター-0.58±0.53Dであった.Aモード法でのメーカー推奨A定数は118.7に対し,今回算出した当院パーソナルA定数は平均118.5であった.IOLマスター用A定数は119.5に対し,今症例での当院パーソナルA定数は平均119.2であった.IOLマスターにおいて,メーカー推奨A定数に比べ当院パーソナルA定数は統計学的に有意に少ない値であった.結論:メーカー推奨A定数を使用した場合の術後屈折誤差は近視化を認めた.
著者
埜﨑 都代子 宮﨑 友晃 中館 俊夫
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.74, no.4, pp.413-420, 2014

作業療法の受療者に適切な作業選択をするための基礎的情報を得るために,臨床でよく用いられる「ぬり絵(以下PA)」作業が対象者に与える生理的・心理的作用について,ストレス課題と想定される「内田クレペリン精神検査(連続加算課題,以下CA)」との比較において検討した.女性24名(平均21歳)を対象にPAとCAという2つの課題を実施した.前安静20分,作業前半15分,休憩5分,作業後半15分,後安静20分,計75分間,同一時間帯,場所にて1課題ずつ2日間,実施した.実験中,5分毎の唾液αアミラーゼ(以下SAmy),毎秒,心拍と脳血流量(酸素化ヘモグロビン濃度:oxy-HB)を継時的に測定した.また日本版POMS(Profile of Mood States)を用いて作業前後の気分を測定した.測定値平均の経時的変化と課題間の変化を分散分析法で,安静時と作業時の平均値を対応のあるt検定で,POMSはWilcoxonの符号付き順位和検定で差を検定した.有意水準は5%とした.その結果,心拍・脳血流量は作業中の変化はCAが大きいが,PAとCAに有意差はなく,両課題とも安静時より作業中は高値を示す類似した変化だった.一方,SAmyはPAとCAで異なる経時的変化を示し,両課題間には有意差が見られた.CAは安静時に対して作業中が有意に高値を示したが,PAは有意差がなく作業中低値の傾向もみられた.POMSによる気分の変化ではPAは「緊張・不安」「怒り・敵意」「活気」「抑うつ・落ち込み」「混乱」に有意な低下がみられた.CAは「緊張・不安」が高値となる傾向が示され,「活気」「混乱」のみ有意な低下を示した.以上から,自発的なPA作業が,CAにおける半強制的な計算作業と同程度の酸素要求量を持つ脳活動であるにもかかわらず,PA作業は心理的ストレスが認められない課題であることが示唆された.
著者
山口 勇人 福岡 清二 中村 正則 荏原 徹 木村 聡
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.74, no.5, pp.543-547, 2014 (Released:2015-03-06)
参考文献数
6

糖尿病患者は年々増加の一途をたどり,それに伴い合併症である壊疽も増加している.壊疽部からは耐性株も検出され,予後に影響を与える.このため当院にて糖尿病性壊疽で下肢切断に至った症例をもとに検出菌の種類と抗菌薬感受性を集計し,予後との関連を追跡した.24名の患者から57菌株が検出され,内訳はグラム陽性球菌62%(35株),グラム陰性桿菌33%(19株),グラム陽性桿菌5%(3株)で,複数菌検出症例は15名であった.MSSA(Methicillin-sensitive Staphylococcus aureus)をはじめとする皮膚常在のグラム陽性球菌が多く認められ,MRSA (Methicillin-resistant Staphylococcus aureus)は1名のみであった.患者の術後経過をみると7割(17名)の症例が経過良好で退院,3割(7名)が再手術となり8%(2名)が手術以外の原因で死亡した.使用された抗菌薬はCEZ(Cefazolin)が8名と最も多く,次いでPIPC(Piperacillin)5名,IPM/CS(Imipenem/cilastatin)4名,VCM(Vancomycin)4名,MEPM(Meropenem)2名などが使われていた.術後経過不良例では当初CEZを使用した例が多く認められた.複数菌が検出された15名のうち再手術となった症例は5名であり,菌種が多いほど予後は不良であることが示唆された.CEZ耐性の菌株が検出された症例は全体の約6割に上り,とくに透析やASO(Arteriosclerosis obliterans)合併例に多く術後経過不良であったため,周術期の抗菌薬選択には注意が必要と思われた.
著者
肥田 典子 手塚 美紀 熊坂 光香 三邉 武彦 鈴木 立紀 龍 家圭 山崎 太義 廣澤 槙子 田中 明彦 大田 進 相良 博典 小林 真一 内田 直樹
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.75, no.5, pp.542-550, 2015

気管支喘息 (喘息) は気道の慢性炎症,可逆性のある気流制限,気道過敏性亢進と繰り返し起こる咳,喘鳴,呼吸困難で特徴づけられる閉塞性呼吸器疾患である.喘息予防・管理ガイドライン2012では吸入ステロイドが長期管理薬の中心に位置づけられ,治療目標として健常人と変わらない日常生活が送れること,喘息発作が起こらないこと,非可逆的な気道リモデリングへの進展を防ぐこと等が掲げられており,ガイドライン導入後の喘息死は確実に減少している.しかし,アドヒアランス不良による喘息発作による救急外来受診は少なからず存在し,入院治療を要する例もある.これまでに長期間の喘息治療薬の休薬が呼吸機能検査に及ぼす影響を検討した報告は多くあるが,短期間休薬の影響については検討が不十分である.今回,症状安定期の喘息患者において喘息治療薬を短期間休薬し,休薬前後での呼吸機能の変化を検討したので報告する.健康成人15名および喘息患者20名についての呼吸機能検査 (forced vital capacity; FVC,forced expiratory volume in one second; FEV1.0,forced expiratory volume % in one second;FEV1.0%,percent predicted forced expiratory volume in one second; %FEV1.0,V25,V50,peak expiratory flow; PEF) 結果を,2014年4月から7月に昭和大学臨床薬理研究所にて実施した治験のデータより抜粋して解析を行った.喘息患者では吸入ステロイドのみ継続し,治療薬の種類によって中止期間を指示した.長時間作用性β2刺激薬は48時間前から,ロイコトリエン受容体拮抗薬は24時間前から,抗アレルギー薬は72時間前からの休薬とした.各呼吸機能検査値について比較検討した.健康成人では2回目来院時ではFEV1.0%,V50,V25値の有意な増加を認めた.一方喘息患者では2回目の来院時のPEFが有意に低下した.特に喘息治療薬として吸入ステロイド/長時間作用性β2刺激薬配合剤を使用している症例では休薬によるPEF低下率が大きかった.喘息患者では,短期間の治療薬休薬によって自覚症状の増悪がなくてもPEF低下がみられることが確認された.短期休薬によるPEF低下と長期休薬による喘息コントロールの悪化との関連について今後の検討が必要であり,喘息コントロール良好を維持するためには,アドヒアランス向上を目的とした患者教育が重要と考えられた.
著者
湯舟 邦子
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.75, no.4, pp.465-473, 2015 (Released:2016-01-23)
参考文献数
8

「健やか親子21」のキャンペーン以降,母子のメンタルヘルスに対する関心は急速に高まり,産後うつ病に関する要因や現状把握の調査も増え始めている.さらに,産後うつ病の誘因となりうる妊娠期の抑うつ状態にも目が向けられるようになった.しかし,妊娠期からの継続調査は少なく,抑うつ状態に陥り始める時期,抑うつ状態の変化を明確化するには至っていない.そこで,産後うつ病のリスクとなりうる妊娠中の抑うつ状態を発見する有効な方法を考えるために,産後うつ病予測尺度(Postpartum Depression Predictors Inventory-Revised;PDPI-R),SF-36(MOS Short-Form36Item HealthSurvey),日本語版エジンバラ産後うつ病自己評価票(Edinburgh Postsnatal Depression Scale;EPDS),ピッツバーグ睡眠質問票日本語版(Pittsburgh Sleep Quality Index;PSQI)を活用し,初期,中期,末期,産後1か月の間,継続して調査を行った.調査に参加した対象者は,助産院,産婦人科クリニック,大学病院の3施設のいずれかに通院し,妊娠10週から12週に妊婦定期健康診査時に研究の趣旨説明を受け同意した妊婦で,今回の妊娠,分娩,産褥経過の記載されている診療録にうつ病の既往歴の記載がなく,4回の調査に継続的に参加した77名を対象とした.平均年齢33.61±4.54歳で出産経験のある者が29.9%,出産経験のない者が70.1%の割合であった.4回の調査に継続的に参加した者の,PDPI-R得点の平均点はカットオフポイントを超えEPDS得点の平均点はカットオフポイントを超えていなかった.PDPI-Rを従属変数として重回帰分析を行った結果,初期は,初期に感じていた今回予定していなかった妊娠,今回望んでいなかった妊娠,初期のEPDSがPDPI-Rの得点を上昇させ,初期に感じていた不安が得点を下降させていた.末期は,末期に感じていた今回望んでいなかった妊娠が得点を上昇させ,今回の妊娠に対する不安が得点を下降させていた.産後1か月は,初期と末期に感じていた今回望んでいない妊娠と初期末期のEPDSが得点を上昇させていた.各期とも今回予定していなかった妊娠,今回望んでいなかった妊娠は相対リスクが高かった.重回帰分析の結果では,初期のEPDS,今回望んでいなかった妊娠が得点を上昇させていた.中期では今回予定していなかった妊娠の相対リスクが高く,末期,産後1か月では経済状況の相対リスクが高くなっていた.継続調査の結果からは初期と産後1か月のPDPI-RとEPDSの関連が認められた.抑うつ状態を捉える関連要因としての初期のEPDS,望んでいなかった妊娠は,初期,産後1か月で共通要因に挙がっていた.初期に妊娠を望んでいたか,予定していたかの確認を継続的にスクリーニングすることは,抑うつ状態の早期発見に繋がると考えられる.さらに,妊娠確定時の身体的変化,産後の身体的変化については,胎児の発育が順調か,妊娠高血圧症候群移行へのリスクはないかなどの視点だけでは,抑うつ状態の発見が遅れる可能性がある.抑うつ状態の早期発見のためには,生活上の負担になっているか否かの視点に立ち,SF-36,PSQIの活用によって身体的健康,全体的健康感,活力が下降していないかという確認が必要である.