著者
塚谷 才明 小林 沙織 平岡 恵子 田中 妙子 金原 寛子 南田 菜穂 山本 美穂 酒井 尚美
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.99-105, 2017-08-31 (Released:2020-04-19)
参考文献数
8
被引用文献数
2

【目的】嚥下障害の合併症の一つに窒息があるが,これまで院内発生例に関する報告は少ない.急性期病院における窒息事例を解析検討することで,今後のリスク管理に生かせる因子を明らかにする.【対象と方法】20xx 年4 月から3 年間,当院の入院患者で医療安全部にレベル3b 以上の窒息事例として報告があった例を診療録,看護記録より後方視的に検討した.対照群は同期間の入院患者で平均年齢,入院科を窒息群と合致させ,他は無作為に抽出した130 名とした.【結果】窒息事例は5 例,入院科は整形外科2 例,内科3 例であった.年齢分布は68 歳から94 歳,平均83.4 歳であった.窒息は既往症に嚥下機能低下をきたす可能性のある疾患を有し(5 例中4 例),入院前の食事摂取が自立していた患者(全例)で起こっていた.ADL(歩行,排泄,日常生活の自立度)は自立と介助の境界レベルの患者が多かった.窒息イベントは入院早期に起こり(入院後平均9.2 日),発生時の食事形態は常食もしくは軟菜であり,嚥下調整食で窒息した例はなかった.窒息群では5例中4例(80%)で利尿薬の内服があり,対照群での内服割合130 例中31 例(23.8%)より有意に高かった.この期間の65 歳以上に限定した入院患者数は11,381 名で,65 歳以上の入院患者が院内で窒息を起こす確率は0.04%,おおよそ2,500 人に1 人の割合であった.【結論】院内発生の窒息事例は経口摂取自立者で,既往に嚥下障害リスクを有し,常食もしくはそれに近い食形態の物を食べている,入院早期の高齢者患者に起こりやすい.