- 著者
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田中 妙子
- 出版者
- 早稲田大学
- 雑誌
- 早稲田大学日本語研究教育センター紀要 (ISSN:0915440X)
- 巻号頁・発行日
- vol.10, pp.17-40, 1998-03-31
<先取り>は, 相手の発した一発話が完全に終わらないうちに, 言語化されていない部分の内容を予測し, それに関わりのある何らかの言語表出を行うことである.本稿では, 日常会話とテレビ番組の会話を主な用例資料として, この<先取り>に関する分析を行った.<先取り>の性質は, 何を予測するかという点に注目した「予測の内容」と, 予測した内容をどのように言語化するかという点に注目した「言語化の方法」によって規定される.予測の内容は, (1)発話内容を予測する, (2)文末の述べ方を予測する, (3)発話が終わることを予測する, という三種に分類された.また, 言語化の方法は, (1)<代弁先取り>, (2)<相づち先取り>, (3)<返答・発展先取り>の三種に分類された.<先取り>という言語行動が会話の中で果たす役割については, 「効果」という語を用いて説明した.<先取り>の効果は, ・対人的な効果として, (1)理解・共感・一体感を表す, (2)からかい・皮肉を表す, (3)否定的感情・反発を表す, という三種に分類された.また, 会話展開上の効果として, (1)発話に要する時間を短縮させる, (2)会話が途切れることを防ぐ, (3)相手の発話や話題の打ち切りを示唆する, という三種に分類された.