著者
南部 稔
出版者
神戸商科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

平成8年度〜平成10年度科学研究費研究成果報告書は6章よりなる。中国では1979年の改革・開放以来、金融改革は他の経済分野に劣らず進められてきたが、はからずも1998年のアジア金融・通貨危機のなかでその真価が問われることになった。だが、やはりその脆弱性は否めなかったものの、そこから多くを学んでいる。こうしたことをふまえて研究成果報告書の概要を紹介すると次のようになる。第1章では、建国以来の経済発展を金融動向と照らしあわせながら、時期区分をしてその経緯をたどっている。第2章では、金融改革とともにマクロ・コントロール・システムがどのように構築されていきたのかを考察している。第3章では、中国人民銀行を中央銀行にすえて、政策銀行を配備し、その周囲に国有商業銀行、一般の商業銀行、外国銀行、ノンバンクなどが整備・拡充されてきたプロセスを紹介している。第4章では、金融市場の発展について、短期市場と長期市場に分けて考察している。第5章では、中国の外国為替市場はきわめて閉鎖的であったが、1994年から為替レートが市場レートに一本化されて、管理されたフロート制がとられることになって以来の外国為替政策の展開過程について考察している。第6章では、アジア金融・通貨危機によって中国経済はどのような影響を受けたのか、それによって人民元の切り下げの可能性があるのかについて考察している。1998年に人民元切り下げの回避に成功したが、それで問題は払拭されたわけではなく、さらにWTO加盟や国際化の深化にともなって資本自由化の外部圧力も強まってこよう。そこで、中国共産党は中央金融工作委員会を設けて、金融監視体制の強化にのりだすことにした。金融システムの崩壊は国民経済を根底から破壊する恐さをアジア金融・通貨危機から認識したからである。今後の取り組みに注目したい。