著者
太田 出
出版者
神戸商科大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000

今年度は本研究課題に関わって8月3日〜19日まで中国北京、9月1日〜7日まで台湾台北で海外調査を行った.北京では、社会科学院歴史研究所に赴いて中国人研究者と交流を深めると同時に、第一歴史〓案館・国家図書館(旧北京図書館)・首都図書館で監獄・警察・裁判関係の史料を閲覧・複写した。また台北では、短期間であったが、中央研究院で同様の史料を閲覧・複写した。国内では、12月末に東京大学東洋文化研究所に赴き、広西省の模範(モデル)監獄など監獄関係史料を中心に閲覧・複写した。以上が本年度の史料調査の概要であるが、筆者の勤務先の変更もあって十分な時間を確保できず、当初の予定すべてを行うことはできなかった。今後の課題としたい。また今年度は昨年度に複写・蒐集した史料の読解・分析作業も同時に進めた。成果の一部は後掲の雑誌論文「「自新所」の誕生-清中期江南デルタの拘禁施設と地域秩序-」(『史学雑誌』111-4、2002)で公開する予定である。これは監獄に関わる調査の中で入手できた史料群に分析を加えることで、これまで全く未解明であった授産更正的な拘禁施設=自新所の実態を検討し、その誕生が刑罰制度や地域秩序の有り様と如何に関わっていたかを考察したものである。このほか監獄関係については興味深い史料を多数蒐集できている。今後さらに分析を進めていく予定である。犯罪現象については、京都大学人文科学研究所(明清班、班長岩井茂樹)において研究成果の一部を「清前中期江南デルタ社会と犯罪抑圧の変遷-労働力の流入、犯罪そして暴力装置-」と題して口頭発表した。これは犯罪抑圧の研究を江南デルタ開発の全体史の中に位置づけようと試みたものである。
著者
南部 稔
出版者
神戸商科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

平成8年度〜平成10年度科学研究費研究成果報告書は6章よりなる。中国では1979年の改革・開放以来、金融改革は他の経済分野に劣らず進められてきたが、はからずも1998年のアジア金融・通貨危機のなかでその真価が問われることになった。だが、やはりその脆弱性は否めなかったものの、そこから多くを学んでいる。こうしたことをふまえて研究成果報告書の概要を紹介すると次のようになる。第1章では、建国以来の経済発展を金融動向と照らしあわせながら、時期区分をしてその経緯をたどっている。第2章では、金融改革とともにマクロ・コントロール・システムがどのように構築されていきたのかを考察している。第3章では、中国人民銀行を中央銀行にすえて、政策銀行を配備し、その周囲に国有商業銀行、一般の商業銀行、外国銀行、ノンバンクなどが整備・拡充されてきたプロセスを紹介している。第4章では、金融市場の発展について、短期市場と長期市場に分けて考察している。第5章では、中国の外国為替市場はきわめて閉鎖的であったが、1994年から為替レートが市場レートに一本化されて、管理されたフロート制がとられることになって以来の外国為替政策の展開過程について考察している。第6章では、アジア金融・通貨危機によって中国経済はどのような影響を受けたのか、それによって人民元の切り下げの可能性があるのかについて考察している。1998年に人民元切り下げの回避に成功したが、それで問題は払拭されたわけではなく、さらにWTO加盟や国際化の深化にともなって資本自由化の外部圧力も強まってこよう。そこで、中国共産党は中央金融工作委員会を設けて、金融監視体制の強化にのりだすことにした。金融システムの崩壊は国民経済を根底から破壊する恐さをアジア金融・通貨危機から認識したからである。今後の取り組みに注目したい。
著者
安室 憲一
出版者
神戸商科大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2001

日本の経済団体を中心に「図書・資料センター」を調査し、基礎資料の発見と体系化を試みたが、戦後の日本の法人外交に関して基礎資料がなく、論議や交渉の過程を記録したアーカイブが存在しないことが判った。経済外交に関する資料の収集や整理が体系化されていないことは国家的損失といえる。アンケート調査により、9.11同時多発テロの後に日本の代表的多国籍企業が、どのような世界認識をもち、どのようなリスク対応戦略をとっているかを明らかにした。主な発見史実は、日本企業の世界認知が多様化していること。国益(日本人の雇用を守ることと定義)から離反せざるを得ない企業が相当数あった。日本企業は、国益と企業益が一致する「貿易立国」から、国益から企業益が自立する「グローバル」段階に達したようである。自立した企業は企業益を守るために「法人外交」の意識と組織を持ちはじめている。とくに東京以外の地域に立地する中堅規模の企業に、外務省に頼らない「法人外交」への志向性が強く見られた。海外でのヒアリング調査では、EU、米国、中国、東南アジアを訪問した。同時多発テロ以降の米国における経営環境については、ハーバード大学のジョーンズ教授(Geoffrey Jones)と議論し、今後の研究協力を約束した。現地調査では、松下電器産業の欧州、北米、アジア統括本社、その他多数の日系企業をヒアリングした。ヒアリングの結果、日系企業では進出先国の中央政府を意識した外交から、地方政府・地域社会をパートナーとした「地域外交」へと比重がシフトしていること。「地域」が独自性をもつことにより、「国家」を経由せずに、グローバルなリンケージを形成しつつあること。そのグローバル・リンケージの有力な手段として、日系子会社や地域統括本社が地域に貢献し始めていることを見出した。以上の研究成果を纏めて、近日中に著書として公刊する予定である。