著者
南雲 泰輔
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本年度は、まずは昨年度取り組んだ研究成果を口頭報告および論文として発表することから始めた。第一に、第8回日本ビザンツ学会において口頭で報告を行なった21世紀以降の「古代末期考古学」の動向分析を学界動向として論文化し、『古代史年報』8号(2010年)に発表した。第二に、ローマ帝国西部の武官スティリコに関する研究成果の一部を、第60回日本西洋史学会大会(2010年5月30日、別府大学)において口頭で報告し、この口頭報告を基にした論文を『古代文化』62巻3号(2010年)に発表した。この論文は、後期ローマ帝国において「蛮族」という属性が持った意味について、近年主流となっている考え方とは異なる視角から解明を試みたものであり、詩人クラウディアヌスのラテン詩等の分析に基づき、皇帝家と「蛮族」出身の武官スティリコとの間で形成された姻戚関係に着目して考察を行なった,続いて本年度は、ローマ帝国西部における当時の代表的元老院貴族クイントウス・アウレリウス・シュンマクスの著作を中心とした考察を新たに進めた。予定通り、2010年9月に英国・ロンドン大学古典学研究所および大英図書館において集中的な文献調査・資料収集を行ない、国内では入手・閲覧の困難な多数の関連資史料を参照・収集することができ、これによって現在までの研究状況とその問題点とを概ね把握しえたことは大きな成果であった。また、この文献調査・資料収集の結果、本年度の当初の研究計画は部分的に修正する必要が生じ、とりわけ分析の中心となる同時代史料については、シュンマクスの残した『書簡集』のみならず『陳述書』をも視野に含めることとして、それぞれの史料の読解を進め、これを検討した。