著者
相田 直樹 印南 一路
出版者
一般社団法人 レギュラトリーサイエンス学会
雑誌
レギュラトリーサイエンス学会誌 (ISSN:21857113)
巻号頁・発行日
vol.13, no.3, pp.193-210, 2023 (Released:2023-09-30)
参考文献数
11

わが国の薬剤費の推計は,国民医療費と社会医療診療行為別調査に依拠しており,その手法上の限界が指摘されてきた.本研究は,IQVIAソリューションズジャパン社の2012年度より2021年度までの全医療用医薬品のデータと,株式会社医薬情報研究所のデータをYJコードで結合して分析する手法を用い,わが国の薬剤費の推移を種別ごとに把握し,医薬品に関連する政策目標が達成されているか否かを定量的に評価した.第一に,先発品,長期収載品,後発医薬品ごとの市場規模の推移を記述した結果,昨今わが国が目指してきた長期収載品依存の体質からの脱却,後発医薬品の使用促進といった政策目標はおおむね達成されていた.第二に,抗ウイルス剤,抗PD-1抗体薬の再算定による適正化効果,各種再算定の適正化効果,通常薬価改定の適正化効果,新薬創出加算対象品の市場規模の推移,安定確保医薬品の市場規模の推移,通常薬価改定および各種再算定がなかった場合のシミュレーション分析などの分析の結果,全体として,薬価改定や各種再算定は薬剤費のコントロールに寄与していることが示された.これは2016年の「薬価制度の抜本改革に向けた基本方針」に沿っている.
著者
印南 一路
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.71-85, 2021-07-08 (Released:2021-07-13)
参考文献数
16

2020年末,新型コロナ禍の合間を縫って,長年議論されてきた後期高齢者の2割自己負担導入,紹介状なしの大病院外来受診時定額負担の問題が決着した。定率であれ定額であれ,患者自己負担の導入は,国民の負担増加を伴い,かつ医療団体の強い反対が予想される実現困難な改革のはずである。にも拘わらず,これらの課題が決着できた理由は何か。この疑問に答えるため,官邸機能強化に関する制度的考察,合意形成のガバナンス(意思決定規律)に関するモデル構築,上記2事例についての事例過程追跡の3つを行った。その結果,(1)1994年以来の政治制度改革,省庁と会議体の再編,内閣機能の漸進的強化により,重要政策会議等の閣議決定を用いた官邸主導による合意形成が効率化されたこと,(2)どのような合意形成手段が使われるかは,課題の政治性のレベルに依存するが,課題の政治性のレベルは課題固有の特徴と一致し,特に選挙への影響予想と関係団体の抵抗の強さに依存すること等が示された。
著者
印南 一路 堀 真奈美
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.9, no.3, pp.33-68, 1999

わが国の急速な高齢化の進行に伴い,寝たきり老入の介護問題は,解決を要すべき緊急課題の一つと認識されている。しかし, 寝たきり老人に関しては, 全国レベルでの大まかな推計, 医学的な原因分析や,現場からの現状報告があるものの,全国の市町村レベルにまで踏み込んで,寝たきり老人の実態を把握し,寝たきり老人発現の地域格差や環境要因を追究した研究報告は,これまで存在しない。<BR>そこで本研究は, 平成5 年度以降策定された「老人保健福祉計画書」にある市町村別在宅寝たきり老人数のデータを用いて,まず年齢階層別の在宅寝たきり老人の発現率の地域格差を検証した。次に,全国市町村の医療福祉サービスデータ,地域特性データ(自然環境,人間環境,経済環境,医療福祉環境,文化環境)を用いて,在宅寝たきり老人発現の要因構造モデルを構築し,さまざまな要因が発現率に与える影響と要因間の影響を定量的に測定した。なお,特別養護老人ホーム(以下,特養と略す)のある地域では,在宅寝たきり老人が施設に入所している可能性があるため,環境要因構造モデルは,総合モデル,特養なしモデル,特養ありモデルの三つに分け分析した。その結果,以下が明らかになった。<BR>(1)年齢構造を考慮しても,在宅寝たきり老人の発現率には大きな地域格差が存在し,高年齢階層ほど発現率の地域格差が拡大する。これまで在宅寝たきり高齢者発現率の地域格差は,老齢人口の偏りによって説明されてきたが,年齢階層別の寝たきり老人の発現率はほぼ一定であるという主張には根拠がないことになる。<BR>(2)在宅寝たきり老人の発現率に直接強い影響を与えるのは,人間環境と医療福祉環境であり,自然環境,経済環境,文化環境の影響は主として間接的なものにとどまる。<BR>(3)人間環境変数は,全般的に在宅寝たきり老人発現率に直接強い効果が観察された。特に核家族割合は負の直接効果が出た。通常,核家族割合が高いということは家庭内介護者が少ないことを意味する。したがって,家庭内介護者の少ない地域では,在宅寝たきり高齢者発現率が低くなるということである。また,核家族割合は非農家世帯と相関が強いため,農家世帯割合が低いと在宅寝たきり老人発現率が低く,農家世帯割合が多いと発現率が高いことになる。<BR>(4)医療福祉環境は,総合モデルと特養なしモデルでは直接効果をもっていたが,特養ありモデルでは,直接的関係がなかった。これは特別養護老人ホームのある地域では,その他の医療福祉サービスの充実度は,在宅寝たきり老人の発現率には直接関係しないということを意味する。<BR>(5)自然環境, 人間環境医療福祉環境間の複雑な関係が観察された。