著者
関島 恒夫 原 範和 大津 敬 近藤 宣昭
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.335-344, 2007-11-30 (Released:2016-09-16)
参考文献数
29

「冬眠」現象を研究する魅力は、5℃以下まで体温を低下させることができる低体温耐性と、そのような極限の体温低下にも関わらず、細胞や組織レベルで異常をきたさず、生体が正常に機能を果たしている点にある。チョウセンシマリスから発見された新規の冬眠特異的タンパク質(Hibernation-specific proteins: HP)に関する研究は、現象の把握に終始してきた冬眠研究を、統合的な生理的調節システムとして理解する道筋を提供した。その結果、チョウセンシマリスでは冬眠を制御する年周リズムが体内で自律的に働き、それが血中のHP量を調節することで、冬眠可能な生理状態を自ら作り出していることが明らかとなった。また、HPの生体内調節の知見に基づき、冬眠期における脳内HPの機能をHP抗体の脳室内投与により阻害したところ、冬眠状態から覚醒状態への速やかな移行が見られ、冬眠の人工的制御が可能であることを証明した。本総説では、これまでに明らかとなっている冬眠調節に関わる生理機構の全貌に加え、冬眠調節の一端を担うことが明らかとなったHPを分子指標として用い、冬眠の進化あるいは地球規模の環境変化による冬眠動物への影響評価といった生態学的・進化学的視点に立った課題の解決に向けた最近の取り組みを紹介する。