著者
梛野 健司 高 忠石 原田 寧
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.137, no.6, pp.245-254, 2011 (Released:2011-06-10)
参考文献数
10
被引用文献数
2 3

パリペリドンは,日本国内および海外で非定型抗精神病薬として広く使用されているリスペリドンの主活性代謝物(9-ヒドロキシ-リスペリドン)であり,リスペリドンと同様にドパミンD2およびセロトニン5-HT2A受容体に対する阻害作用を有し,セロトニン・ドパミンアンタゴニスト(SDA)に分類される.さらに,パリペリドンの製剤は,放出制御型徐放錠であり,放出制御システム(osmotic controlled release oral delivery system: OROS®)を用いることによって,24時間持続的にパリペリドンを放出し,安定した血漿中薬物濃度が維持できる.これによって,1日1回投与による統合失調症治療が可能になり,有効性および忍容性の向上が期待できる.パリペリドンは,D2受容体および5-HT2A受容体に対してリスペリドンと同程度の親和性を示し,D2受容体と比較して5-HT2A受容体に対して高い親和性を示した.これらのことから,パリペリドンは,統合失調症においてドパミン神経系が関連する陽性症状の改善だけでなく,陰性症状の改善および従来の定型抗精神病薬で問題となる運動障害(錐体外路系副作用)の軽減が期待できる.国内の臨床試験は,成人の統合失調症患者を対象とした探索的試験を第II相試験として実施し,positron emission tomography(PET)検査により,投与量および血漿中濃度とD2受容体占有率との関係を検討した.第III相試験では,統合失調症では国内で初めてのプラセボ対照二重盲検比較試験を実施し,パリペリドンER 6 mg,1日1回朝投与のプラセボに対する優越性を検証するとともに,初回投与時に低用量からの漸増が不要で維持用量の6 mg/日から投与を開始しても安全であることを確認した.また,48週間の長期投与試験において,長期間の曝露に伴う安全性リスクの増加はなく,有効性の維持についても確認した.特に,日本人統合失調症患者に対するエビデンスが明確に示されたことの意義は大きく,パリペリドンERは,現在の本邦における統合失調症の治療において第一選択薬となりうる薬剤として期待される.
著者
梛野 健司 敷波 幸治 齋藤 隆行 原田 寧
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.138, no.3, pp.122-126, 2011 (Released:2011-09-10)
参考文献数
26
被引用文献数
1 1

ガランタミン(レミニール®)は,コーカサス地方のマツユキソウの球径から分離された3級アルカロイドであり,国内2剤目のアセチルコリンエステラーゼ(AChE)阻害薬として,軽度および中等度のアルツハイマー型認知症(AD)における認知症症状の進行抑制の適応症を取得した.ガランタミンの作用機序は,AChEに対して可逆的に競合阻害作用を示し,さらにニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)のアセチルコリン結合部位と異なる部位に結合し,アロステリック活性化リガンド(APL)として作用することでnAChRに対するアセチルコリン(ACh)の作用を増強させる(APL作用).In vitro試験および動物を用いた行動薬理学的評価から,ガランタミンは,アミロイドβによる神経細胞障害に対して保護作用を示し,学習記憶の低下に対して改善効果を示した.国内臨床試験(GAL-JPN-5試験)では,軽度および中等度のAD患者580例を対象に,ガランタミン16 mg/日および24 mg/日の有効性と安全性をプラセボ対照二重盲検法により検討した.主要評価項目はADAS-J cogおよびCIBIC plus-Jの二元評価とした.その結果,認知機能評価の指標であるADAS-J cogでは,16 mg/日および24 mg/日ともにプラセボとの間に統計学的有意差を認め,そのエフェクトサイズは16 mg/日よりも24 mg/日の方が大きかった.一方,全般臨床評価であるCIBIC plus-Jでは,両投与量群ともに有意差は認められなかった.安全性評価では,16 mg/日および24 mg/日の忍容性は良好であった.ガランタミンの剤形には,錠剤(4,8,12 mg),口腔内崩壊錠(4,8,12 mg)および内用液(4 mg/mL)があり,患者の嗜好や状態により適切な剤形の選択が可能である.以上のことから,ガランタミンは,AD患者における新たな治療選択肢として期待される.
著者
梛野 健司 堤 健一郎 石堂 美和子 原田 寧
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.145, no.2, pp.92-99, 2015 (Released:2015-02-10)
参考文献数
29

シメプレビルは,大環状構造を有する第2世代のプロテアーゼ阻害薬であり,ペグインターフェロン(PegIFN)およびリバビリン(RBV)と併用して,C型肝炎ウイルス(HCV)genotype 1の慢性感染の治療に使用する.本薬の作用機序は,HCVの非構造タンパク質(NS)の1つであるNS3/4Aプロテアーゼに結合し,NS3/4Aプロテアーゼが関与するHCVタンパク質のプロセッシングおよびRNA複製を阻害して抗HCV活性を発揮する.HCVレプリコンに対するシメプレビルのin vitro抗HCV活性は,HCV genotype 1aおよびHCV genotype 1bに対して同程度の活性を持ち,第1世代プロテアーゼ阻害薬であるテラプレビルと比較して強い.シメプレビルの抗HCV活性は,インターフェロン(IFN)またはリバビリンとの併用により,相乗または相加作用を示した.日本で実施したHCV genotype 1・高ウイルス量のC型慢性肝炎患者を対象とした臨床試験において,シメプレビル100 mg 1日1回をPegIFNα-2a/2bおよびRBVと併用投与したときの治療終了後12週時の持続的ウイルス陰性化(SVR12)率は,初回治療例および前治療再燃例で約90%,前治療無効例で約40~50%であり,安全性および忍容性は良好であった.C型肝炎治療ガイドラインにおいて,シメプレビルとPegIFNおよびRBVの3剤併用療法は,HCV genotype 1・高ウイルス量のC型慢性肝炎患者に対するIFN-based therapyの第1選択薬とされており,シメプレビルはC型慢性肝治療に大きく貢献できる薬物である.
著者
藤井 秀二 村上 善紀 原田 寧
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.141, no.5, pp.275-285, 2013 (Released:2013-05-10)
参考文献数
35
被引用文献数
1 2

抗TNF製剤は,リウマチ(RA)などの自己免疫疾患の治療に欠かせない薬剤となっている.ゴリムマブは,これまでの抗TNF製剤の優れた有効性を保持したまま,従来の抗TNF製剤において長期治療の障害になってきた抗薬物抗体の出現,投与部位反応,適切な投与間隔および複数の投与経路を有することなどの点を改善することを目標として開発されたヒト型抗ヒトTNFα抗体である.ゴリムマブは,抗体製剤としては,物理化学的な安定性に優れ,TNFαに対する強い親和性および中和活性を示した.また,ゴリムマブは IgG1のFc領域を有し,FcRnに結合するため体内での半減期が長く,また,Fcγ受容体に結合することから,インフリキシマブおよびアダリムマブと同様な生物活性を示すことが予想された.ゴリムマブのRAに対する海外臨床試験は,2001年から開始され,米国では2009年4月,欧州では2009年10月に承認された.日本での臨床開発は,2006年から第I相単回投与試験を開始し,第II/III相試験を経て2011年7月に承認された.これらの臨床試験において,ゴリムマブを4週間隔で皮下投与したときRAに対する症状および徴候の軽減,身体機能改善および関節破壊進展抑制効果が認められ,安全性も確認された.また,これらの臨床試験から,ゴリムマブはRAの疾患活動性に応じた投与量の選択が可能なこと,単剤でも使用できること,抗ゴリムマブ抗体の陽性率が低いこと,注射部位反応の発現率が低いこと,既存の抗TNFα製剤を使用していた患者にも有効性を示すことなどの特徴が明らかとなった.本稿ではゴリムマブのこのような特徴を紹介する.