著者
友永 輝比古
出版者
三重大学
雑誌
人文論叢 : 三重大学人文学部文化学科研究紀要 (ISSN:02897253)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.127-131, 2003-03-25

今の日本で劇場に足を運ぶ人々は、「笑いと元気と斬新さ」を求めています。新劇界がもっと喜劇を採り上げ、喜劇役者がいないならば、思いきって吉本新喜劇の役者を客演に招いて芝居づくりをすれば、日本の演劇はもっと面白くなるのではないでしょうか。そんな訳で、喜劇役者が演じたと言われるモリエールの『ドン・ジュアン』と、ブレヒトの弟子たちが改作した『ドン・ジュアン』を選び、両作品を比較してみました。モリエールのドン・ジュアンもベルリーナー・アンサンブルのドン・ジュアンも、偽善者になることを宣言してから地獄に落とされるのですが、そこまでの過程において、アンサンブルの方はモリエールと違って、ドン・ジュアンの偽善者たるにふさわしい本性を鋭くしかも笑劇風に描いています。また、アンサンブルはこの喜劇の中に、1950年代のドイツの情況を忍び込ませてもいます。
著者
友永 輝比古
出版者
三重大学
雑誌
人文論叢 : 三重大学人文学部文化学科研究紀要 (ISSN:02897253)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.103-111, 2002-03-25

マーロウからすると約300年前の,ブレヒトからすると約600年前の出来事,エドワード2世が即位してから獄死するまでの出来事を,これらの作家は舞台化した。ブレヒトの『イングランドのエドワード2世の生涯』は,マーロウの『エドワード2世』の翻案である。2つの作品の間には,約330年の隔たりがあり,劇形式,言葉の使い方,台詞回し,人物像等の点で大きな違いがある。逆に,その違いから時代の違いが感じられる。マーロウはイギリスのルネッサンス期を生き,ブレヒトはドイツの激動期を生きた。したがって,それぞれの作家の,それぞれ別の時代における世界観,人間観を作品から読み取ることが出来る。ここでは,2つの作品を比較し,主な登場人物の人物像の違いを述べることにする。
著者
友永 輝比古
出版者
三重大学
雑誌
人文論叢 : 三重大学人文学部文化学科研究紀要 (ISSN:02897253)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.141-145, 2005-03-31

1919年作の『小市民の結婚式』(茶番劇)は上演して成功すると思えるような作品ではありません。同じ年に書かれた『夜打つ太鼓』が1922年にクライスト賞を受賞し、何度も上演されましたが、それと比べると目立たない作品です。しかし、21歳の大学生ブレヒトが、小市民の無思想にして無内容な生き方に疑問を感じて、その俗物性と精神的堕落を暴露したことに、驚きを感じます。そればかりか、単なる暴露劇ではなくて、小市民の俗物性を笑いの対象にしたところに、この作品の良さがあります。ブレヒトは資産家の息子ですから、自ら笑いながら小市民層と決別した、と言えるかも知れません。彼が大学時代を過ごした当時のドイツの社会情勢を概観するなかで、この作品を考えてみたいと思います。