著者
友近 晋 TOMOTIKA Susumu
出版者
東京帝國大學航空研究所
雑誌
東京帝國大學航空研究所報告 = Report of Aeronautical Research Institute, Tokyo Imperial University
巻号頁・発行日
vol.10, no.120, pp.24-44, 1935-04

航空研究所報告第97號(1933)に於いて著者は一つの無限平面壁の近くに置かれた平板に働らく揚力を計算し,色々な數値計算を遂行して,揚力が迎へ角及び平板の壁からの距離によつて如何に變るかを研究した.そしてその理論的結果は,少くとも定性的には,從來しられてゐる實驗結果とかなりよく合ふことを示した.ここに提出する短い報文は上の報告の續きで,更に詳細な數値計算の結果を示すものである.斯様な追加計算を遂行した理由は,前報告發表後に知れた實驗結果と理論とを詳しく比較したい爲である.前報告發表後間もなく著者は瑞西のDATWYLER博士から一書を受け,氏もまた地面効果に就いての或る理論的研究と實驗的研究とを遂行したことを知つた.そして,氏の實驗結果によると,迎へ角が實用的範圍にある場合,平板(翼)の後端が壁に近づくに從つて揚力が非常に増大するが,著者の理論的結果は果して同様な結果を興へるや否やといふ興味ある問題が起つた.しかし,殘念ながら,前報告で遂行した數値計算の範圍では揚力増大の傾向は認められるも,この問題に對して,はつきりした理論的解答を與へることは不可能である.そこで,更に詳しい計算を遂行し,平板の後端がかなり壁に近い場合の揚力を計算し,その結果を著者が着英後に入手したDATWYLERの報文に於ける實驗結果と比較した次第である.計算の結果は第2圖,第3圖,第4圖に示す通りであるが,DATWYLERの實驗結果とかなりよく合ふことが認められる.附録は二つの平行な平面壁の間に置かれた平板に働らく揚力に就いての補遺的計算の結果な示す.即ち,平板の中點が平面壁の丁度中間になくて,それから或る有限な距離だけ離れてゐる場合の揚力の近似式を,平板の幅が壁間距離に比べて小さいといふ假定のもとに導出した結果を示すものである.この様な計算は既にROSENHEADも行つたが,報告第101號(1934)に示した様に揚力に對するROSENHEADの一般式は正しくないから,それから導出された該近似式も亦正しくないのである.
著者
友近 晋 今井 功 TOMOTIKA Susumu IMAI Isao
出版者
東京帝國大學航空研究所
雑誌
東京帝國大學航空研究所報告 = Report of Aeronautical Research Institute, Tokyo Imperial University
巻号頁・発行日
vol.12, no.146, pp.69-128, 1937-02

水上飛行機が海面上を滑走してゐる場合,或は海面の極く近くを飛行してゐる際に,海面が飛行機の揚力に相當大きい影響を及ぼすことが知れてゐる.實際,數年前英國のFelixstoweに於いてなされた實物飛行機による試驗の結果は,水上機の最大揚力が海面の影響によつて約10%も増加することを示してゐるのである.この樣な揚力に對する海面の影響を理論的に研究することは興味あることであるが,この現象を満足に説明し得る理論は今までに提出されてゐない樣である.普通の所謂渦理論の如きは到底うまくこれを説明し得べしとも思へない.本論文では,一つの試みとして,純粋な流體力學的の一問題を研究し,その結果を水上機の揚力の問題に應用することを試みてゐる.先づ,一つの自由表面を持ち且つ半無限大に擴がつてゐる二次元的の流れの中に一つの平板を置く場合,その平板の受ける揚力は如何といふ流體力學的問題を考へ,その揚力を嚴密に計算した.但し,この場合,自由表面は平板の下方に於いて流れを限界してゐるものとした.次に,平板の迎へ角及び平板と自由表面との間の距離を色々に變へて,平板の揚力が自由表面のために如何に影響されるかを詳しく數値的に研究したものである.この樣な問題は一つの理論的の問題としても興味があると信ずるものであるが,又冒頭に述べた水上飛行機の揚力に對する海面の影響といふ實際的の問題にも密接に關聯してゐると考へられる.即ち,若しも海水が靜止してゐるものと假定し且つ重力を無視するならば海水中の壓力は到る處一定であり,從つてその場合には海水とその上の空氣との境界である海の表面は一つの自由表面を形成すると考へることが出來る故に,吾々の研究した理論的の問題は,かゝる假定の下に於いては,水上飛行機が海面上を滑走する場合,或は海面の近くを飛行する場合の條件とよく似て居て,平板は即ち飛行機の翼に對應し,自由表面は海面に對應することになる.從つて,吾々の問題から得られた結果を,大きい誤なしに,實際問題に應用することが出來ると思はれるのである.本論文に於ける色々な詳しい數値計算の結果を適用すると,水上機が海面上を滑走するか,又はそれの極く近くを飛行してゐて,翼と海面との間の距離が翼の幅と同程度の大いさの場合には,翼の最大揚力は海面のために約6%増加することが理論的に豫想される.この理論的結果は前述の實物試驗の結果と比較さるべきものであつて,吾々の理論的問題では流れが二次元的であるに反し實際の場合には三次元的である故に完全な一致を期待し得ないのは當然であることを考慮すると,理論の結果と實際とはかなりよく合ふと云つてもよいと思はれる.
著者
友近 晋
出版者
宇宙航空研究開発機構
雑誌
東京帝國大學航空研究所報告
巻号頁・発行日
vol.10, no.120, pp.24-44, 1935-04

航空研究所報告第97號(1933)に於いて著者は一つの無限平面壁の近くに置かれた平板に働らく揚力を計算し,色々な數値計算を遂行して,揚力が迎へ角及び平板の壁からの距離によつて如何に變るかを研究した.そしてその理論的結果は,少くとも定性的には,從來しられてゐる實驗結果とかなりよく合ふことを示した.ここに提出する短い報文は上の報告の續きで,更に詳細な數値計算の結果を示すものである.斯様な追加計算を遂行した理由は,前報告發表後に知れた實驗結果と理論とを詳しく比較したい爲である.前報告發表後間もなく著者は瑞西のDATWYLER博士から一書を受け,氏もまた地面効果に就いての或る理論的研究と實驗的研究とを遂行したことを知つた.そして,氏の實驗結果によると,迎へ角が實用的範圍にある場合,平板(翼)の後端が壁に近づくに從つて揚力が非常に増大するが,著者の理論的結果は果して同様な結果を興へるや否やといふ興味ある問題が起つた.しかし,殘念ながら,前報告で遂行した數値計算の範圍では揚力増大の傾向は認められるも,この問題に對して,はつきりした理論的解答を與へることは不可能である.そこで,更に詳しい計算を遂行し,平板の後端がかなり壁に近い場合の揚力を計算し,その結果を著者が着英後に入手したDATWYLERの報文に於ける實驗結果と比較した次第である.計算の結果は第2圖,第3圖,第4圖に示す通りであるが,DATWYLERの實驗結果とかなりよく合ふことが認められる.附録は二つの平行な平面壁の間に置かれた平板に働らく揚力に就いての補遺的計算の結果な示す.即ち,平板の中點が平面壁の丁度中間になくて,それから或る有限な距離だけ離れてゐる場合の揚力の近似式を,平板の幅が壁間距離に比べて小さいといふ假定のもとに導出した結果を示すものである.この様な計算は既にROSENHEADも行つたが,報告第101號(1934)に示した様に揚力に對するROSENHEADの一般式は正しくないから,それから導出された該近似式も亦正しくないのである.
著者
友近 晋 梅本 一
出版者
宇宙航空研究開発機構
雑誌
東京帝國大學航空研究所報告
巻号頁・発行日
vol.14, no.185, pp.471-558, 1939-11

有限な幅を持つ非壓縮性完全流體の二次元的噴流の中に置かれた平面翼の受ける力を理論的に研究することは,理論的に興味あるばかりでなく,實際問題の立場からも極めて重要である.何故かなれば,この問題はGottingen型風洞の中に矢高の小さい薄い翼型を斷面に持つ翼模型を置く樣な實際の場合と緊密な關聯があるからである.この問題は,既に十年以上も前に,佐々木達治郎博士により適當な等角寫像を應用して嚴密に解かれたが,諸種の量に對する嚴密な式が極めて複雜であるために,同博士は唯迎角が10°である場合のみの數値計算を遂行されたに過ぎなかつた.その後,佐々木博士はその理論的結果を我國に於ける幾つかのGottingen型風洞に於いて同一の翼模型に就いてなされた實驗結果と比較されたが,爾來迎角が10°以外の他の値を採る場合に就いての嚴密な數値計算は遂行されてゐない樣である.然しながら,迎角の種々の値に對する嚴密な數値計算を遂行して,噴流の自由表面が平面翼の揚力に及ぼす干渉が迎角と共に如何に變るかを吟味することは興味あることと思はれる.斯樣な吟味をすることが本論文の目的の第一のものである.一方に於いて,噴流の中に置かれた翼の受ける揚力の問題はKαRMαN, GLαUERT及びPISTOLESIによつて夫々近似的に取扱はれ,揚力に對する近似式が互に異なれる形で與へられてゐるが,もつと合理的な近似式は嚴密な式からも導出することが出來る筈である.この樣に揚力の嚴密な式からその近似式を導出することが本論文の第二の目的である.本論文の主な目的は上述の二つであるが,便宜上,問題を嚴密に解くために必要な等角寫像に關する議論から敢へて出發し,嚴密な種々の計算を遂行して先づ揚力その他の量に對する嚴密な一般式を求めた.そして,特に平面翼の中點が上流無限遠に於ける噴流の中心線上にある樣な實際的に重要な場合を考へ,迎角が5°,10°,15°である場合に對する非常に面倒な嚴密な數値計算を遂行して,平面翼の揚力が噴流の自由表面のために如何なる影響を受けるか,又その影響が迎角と共に如何に變るかを吟味した.平面翼の幅を2α,無限遠に於ける噴流の幅をD,噴流の中で平面翼の受ける揚力をL,又同じ翼が無限に擴がつてゐる流れの中に置かれた場合に受ける揚力をL_0とすると,L/L_0なる比の値は2α/Dなる比の値が増すに從つて減少することが知れる.又,2α/Dの或る一定値に對するL/L_0の値は迎角βの値が増すに從つて,極めて僅かではあるが,増加することが知れる.然し,その樣な増加の割合は極めて小さいので,βが5°,10°,15°の樣な實用的範圍の値を採る時には,此等の場合に對してL/L_0を縱軸に採り2α/Dを横軸に採つて描いた曲線は,特に2α/Dが0.15より小さい時には,殆んど互に重なつてゐると看做すことが出來る.次に,揚力及びその他の量に對する嚴密な式から出發し,相當面倒且つ困難な近似計算を遂行することによつて,平面翼の中點が上流無限遠に於ける噴流の中心線上にある場合に就いて,揚力の近似式を2α/Dの羃級數の形で求めた.斯樣な近似計算は著者の一人友近が1934年英國Cαmbridgeに滯在中他の研究の餘暇に遂行したものであるが,最近計算を再吟味しすべての結果の正しいことを確めた次第である.L/L_0に對する吾々の近似式によつて計算したL/L_0の近似値と,同じ量に對する嚴密な値とを比較して,吾々の近似式の適用範圍を吟味した.迎角βの値の如何に關係なく,2α/Dが大體0.2より小さい場合には,吾々の近似式は正確な値に充分近い樣な良い値を與へることを知つた.本論文に於いて求めた種々の量に對する嚴密な式は極めて複雜であるから,嚴密な數値計算を遂行することは非常に困難である.吾々は,迎角βが5°,10°及び15°なる三つの場合に就いて,副變數qの幾つかの値に對し嚴密な數値計算を遂行したが,同樣の計算を他の場合に繰返へすことは殆んど實現不可能に近い位である.この意味に於いて,實用的な場合にL/L_0に對して相當良い近似値を與へるところの吾々の近似式は實際的立場から見て重要であると思ふ尚ほ,吾々の近似式は平面翼の場合に對する揚力その他の種々の量の嚴密な式から導出したものであるが,矢高の小さい薄い翼に對しては適用しても差支へないであらう.又,二次元的噴流の中に置かれた平面翼を取扱つて得られた吾々の近似式は,Gottingen型風洞の中に矢高の小さい薄い翼型の斷面を持つた翼模型を置く場合に對しても,大した誤なしに,適用することが許されるであらう.實際,吾々の理論的結果を,約十年前我國に於ける幾つかのGottingen型風洞に於いて遂行された同一の翼模型に對する實驗結果と比較した結果によると,豫想の通り,吾々の近似式はGottingen型風洞の中に翼模型を置く樣な實際の場合にもかなり良く適用されるのである.