著者
姫松 裕志 Freysteinn Sigmundsson 古屋 正人
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

陸域におけるプレート発散境界を観測できる地域のひとつとしてアイスランドが挙げられる.プレート境界に沿って活動的な火山がみられ,いくつかの火山は氷河や氷帽などの雪氷に覆われている.これらの火山が噴火した際には火砕流や火山灰の降灰などの他に,山麓のインフラに被害をもたらすラハールなどの融雪型洪水を引き起こす可能性がある.近年のアイスランドでhあ1996年Gjalp火山や2010年Eyjafjallajokull火山の噴火に伴う洪水被害が報告されている.Bardarbunga火山もアイスランドの中で雪氷に覆われている火山のひとつであり,ヨーロッパ最大の氷帽であるVatnajokull氷帽の北西に位置している.2014年8月に始まったBardarbunga火山におけるダイク貫入イベントでは,氷帽から10km離れた地点で震源の移動は終息し,この地点で始まった割れ目噴火は2015年2月まで続いた.このイベントに伴う非雪氷域における地殻変動は衛星SARデータを利用した干渉SAR(InSAR)やピクセルオフセット法によって報告されている (Sigmundsson et al., 2014, Nature; Ruch et al., 2015, Nat. Comm.).これらの結果はリフト帯におけるダイクの貫入時に観測されるグラーベン構造を形成する地殻変動の描像(最大6mの沈降と最大2mの西北西-東南東方向の水平変位)を明らかにした. 航空機高度計による観測から氷帽のダイク経路上に直径500m,深さ20mを超える氷帽の円状の沈降(Ice cauldron)や最大60mのBardarbungaカルデラの沈降が報告されている.ダイク貫入イベント前後の数値標高モデルの差分(DEM difference)は氷帽下における地殻変動の影響を受けた鉛直変位を示した.本研究では衛星SARデータにピクセルオフセット法を適用することにより,氷帽上の変位からダイク見入イベントに伴う氷帽下の地殻変動の抽出を試みた.ダイク貫入イベントの前後に撮像された画像ペアにピクセルオフセット法を適用した結果,氷帽の定常的な表面変動を示すシグナルに加えて,地殻変動に伴う氷帽上の表面変動を示すシグナルを検出した.そこでダイク貫入イベント時のシグナルから任意の重みをつけたイベント前のシグナルを差し引くことにより,氷帽下における地殻変動を推定した.推定された氷帽下における地殻変動データを使用して,従来のダイク開口モデルから改良した新しいモデルについて議論する.
著者
村上 亮 古屋 正人 高田 陽一郎 青木 陽介 小澤 拓 島田 政信
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

はじめに 合成開口レーダ(SAR)は,全天候性,広域性,非接触性,計算機親和性など,地殻変動観測に適した多くの長所を有している.一般に,植生が広く分布するわが国においては,Lバンド帯が地殻変動の検出に適している.Lバンドで運用する,我が国の衛星であるJERS,ALOS,およびALOS2に搭載されたLバンドSARによる観測は,火山観測に多くの成果を上げており,すでに火山性地殻変動モニタリングの標準的手法となっている.一方,航空機搭載SARは,ある程度自由に照射方向を設定でき,即時対応にも適応性が高いことから,衛星型にない多くの長所を有しているものの,リピートパス干渉法(DInSAR)に関しては,飛行軌跡の制御や位置追跡の精度がボトルネックとなっており,広く用いられる段階には至っていない.我々は,Lバンド航空機SAR干渉技術の高度化を目ざす研究を実施中であるが,その一環として,九州に点在する活火山(桜島火山,霧島火山,雲仙火山)を対象とした観測を宇宙航空技術研究開発機構(JAXA)が運用する航空機SARシステム(Pi-SAR-L2)を用いて実施した.特に,桜島火山と霧島火山に対しては,リピートパス干渉を目的とした観測をJAXAが2013年以降実施中であり,2017年に新たに観測したデータは,これらの既存データとの干渉処理が可能である.本報告では,衛星観測や水準測量の結果から,最近の数年間における膨張性の変動の存在が明らかになっている,霧島火山硫黄山をターゲットとした,航空機SAR干渉解析結果を紹介する.2.Pi-SAR-L2データの干渉処理についてPi-SAR-L2には,高精度なINS-GPSハイブリッド型の航路追跡装置が搭載されている.これにより,高い軌道再現性が実現されているが,予測不可能な気流の変化等の影響によって,完全な同一航路の実現は困難である.その結果,航空機干渉SARの飛翔航路偏差起源の位相差の分布は,衛星のそれに比べてより複雑な形状を呈し,地殻変動情報の有効な抽出には,航跡の複雑性に起因する位相分布の適切な除去が必要である.これまでの予備的な解析から,ペアを構成する主画像(Master)および従画像(Slave)の位置合わせの達成度が干渉性をほぼ支配することが分かっているので,そのプロセスの確実性を高めることに,解析の主眼をおいた.位置合わせは,主従の元画像どうしのピクセルのズレの検出と,同一地点のピクセルどうしが同じ位置に来るように従画像の位置ズレを補正するリサンプルのプロセスで構成される.解析に使用する干渉SAR解析パッケージであるRINCでは,基本的に二次関数によるズレ予測に基づき,成功領域を徐々に拡大するアルゴリズムに基づいており,今回は,その特徴を生かしつつ確実なズレ検出を全画面領域において成立させるため,手動による確認プロセスを挟みながら,繰り返し処理を行い,徐々に成功領域を広げる処理を定式化した.この方法により,解析した6ペア全ての全画面において,ズレの高精度検出に成功した.一方,従画像(Slave)のリサンプリングは,現状では,二次関数による多項式近似を依然として採用しており,より複雑な変化をする飛行(Azimuth)方向において,数ピクセルにおよぶ残差が残留しており,これが,帯状の干渉不良領域を発生させている原因であることも分かった.二次関数では近似できない高周波成分に対しても対応する,より高精度なリサンプリングを実施すれば,干渉度がさらに改善される期待がある.いずれにせよ,位置合わせ手法を改善した結果,斑状の干渉不良領域は残存するものの2014,2016,2017の三時期に実施された三方向から観測から構成した,全6ペアの全てについて,全領域の干渉が達成された.3. 霧島火山の干渉解析結果リサンプリング手法に改良の余地があり,全画像での均一な干渉は実現できなかったが,現時点でも,かなりの領域で良好な干渉が達成されており,衛星SARや水準測量など他観測から地殻変動の存在が確認されている硫黄山において,航空機SARでも火山活動に対応すると考えられるフリンジが確認できた. 全て膨張性の変動が示唆される結果となっており,視線方向の距離変化の大きさは数cm程度であった.航空機干渉SARでは,上空の風速の変化などの影響で,飛行軌跡が小刻みに変動するため,航空機搭載のGPSによる航跡情報では補正しきれない,軌道縞や地形縞が残存する.今回の解析では,空間的長波長のフリンジは,全て軌跡起源と解釈して,一律に取り除く処理をしたため,空間的に長波長の地殻変動も取り除かれる恐れがある.しかし,硫黄山の地殻変動は力源が浅く,局所に偏在する変動と考えられるため,今回の手法でも確実に捉えることができたと考えられる.なお,長波長成分除去後のノイズレベルの見積もりは,概ね+-2cm程度であるなお,航空機SARの特性を生かし,多方向からの観測が行われており,地殻変動の三次元化を実施し,講演時にはその結果についても報告する.謝辞:干渉SAR解析には小澤拓博士が開発したRINC(Ver.0.36)および国土地理院の標高データを使用した.ここに記して感謝する.