著者
古屋 英彦
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.76, no.2, pp.182-200, 1973-02-20 (Released:2008-12-16)
参考文献数
45
被引用文献数
1

最近の複雑多岐にわたる社会機構の中で生活する者にとつて,種々雑多な身体的および精神的ストレスにさらされることを余儀なくされているのが現状である.そのため生体の生理的バランスが維持されるのに重要な自律神経も絶えず緊張状態に置かれるため,それに伴う疾患の一つである眩暈症も増加の傾向にある,このために「めまい」は近代病とみなされているが,最近では種々の平衡神経系の機能検査をしても診断のはつきりしない眩暈や,あらゆる薬物療法にも抵抗を示す眩暈や,薬物の効果がある程度の範囲でとどまつてしまう眩量が増加している.一方,堀口教室における系統的研究では鼻咽腔炎によつて自律神経機能のアンバランスを来すことが解明され,眩暈が鼻咽腔炎に伴つて増強し,鼻咽腔炎の治療に伴つて眩暈が消失する事実も認められている.本論文では,外来を訪れた「めまい」患者を対象とし,これらについて詳細な前庭機能検査と鼻咽腔検査を施行し,その成績より眩暈患者の分類と鼻咽腔炎の有無との関連,鼻咽腔刺激による自律神経反応と前庭症状との関連,鼻咽腔治療に伴う前庭反応と自律神経反応との平行性を調べ,鼻咽腔炎と眩暈症との関連性を検討した結果,両者の間には密接な関係があることを認め次の結論を得た.結論1) 鼻咽腔炎の存在が,眩暈を誘発し増悪させる.2) 従来診断不明とされていた眩暈症には,鼻咽腔炎によるものが少からず存在する.3) 鼻咽腔刺激検査は眩暈症の予後判定に役立つ.4) 末梢迷路疾患の初期の段階では自律神経緊張が亢進し,次いで交感神経低反応型に移行し,眩暈消失の段階では自律神経反応は正常型になる.