著者
一田 昌利 古澤 壽治
出版者
京都工芸繊維大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1993

1.3年にわたって絹糸虫類(天蚕)の無菌人工飼料育法の検討を行った。蚕の人工飼料を基本とし、飼料樹葉乾燥粉末の割合を40%に引上げ、無機塩混合物についてはウエッソン塩混合物から不必要な成分を排除して、極力簡単な組成とした。ビタミンB混合物についても改変を行った結果、2眠まで到達する個体が認められたが、糖を含まない組成では3齢に達する個体はなかった。そこで、人工飼料に添加する糖の種類(グルコース、シュークロースおよび市販の精製糖)および添加割合の検討を行った結果、無添加では、虫体は大きくなるものの5%が3齢になっただけであったのに対し、いずれの糖類を添加した区においても3齢到達率が顕著に高くなった。特に、シュークロース10%添加区では3齢率が90%を越え、発育スピードも早くなったことから、人工飼料に添加する糖類としてはシュークロースが良く、添加量は10%が実用的濃度と考えられた。2.上記人工飼料による全齢人工飼料育および、1-3齢人工飼料育とクヌギおよびシラカシによる4-6齢飼育を組み合わせ、ヤママユガ(天蚕)の周年飼育を試みた結果、年間を通しての飼育が可能であることが明かとなったが、このことは、絹糸虫類の安定的飼育を考える上で意義は大きい。3.絹糸虫類卵の過冷却点を比較した結果、温度の高いものから3つのグループ(1)ヤママユガ、(2)クスサンおよびウスタビガ、(3)ヒメヤママユガに分けられた。また、2.5°C以下に卵を保護することでヤママユガの場合、産卵1年後においても80%を越える孵化率が得られた。このことは、イミダゾール化合物による休眠打破技術と組み合わせることで、年間を通しての随時孵化の可能性を示唆している。