著者
古賀 節子
出版者
日本赤十字九州国際看護大学
雑誌
日本赤十字九州国際看護大学intramural research report (ISSN:13478877)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.84-104, 2005-12-25

この研究は、問題解決場面における、熟達者と初心者の思考の相違を明らかにすることを目的とし、看護師と看護学生を対象に、「生命の危機状態を想定したビデオ」を用いて、情報処理的アプローチによるビデオ映像の再生実験を行った。実験結果は、1.記憶再生では、初心者と熟達者が再生した内容に差はなかった。ただし、細部の記憶では初心者のほうが熟達者より誤想起した者が多かった。2.「生命の危機状態」の問題解決場面のif-thenルール導出は、初心者より熟達者の方が多かった。ただし、初心者もif条件部分の導出は出来ている人は多く、then行為部分の導出に差があった。3.問題解決において用いられた知識の表象は、情報としての知識は、初心者と熟達者でほぼ同じであったが、知識間の関係性に違いがみられた。熟達者では、初心者よりネットワーク化されており、高次の中心概念があった。初心者と熟達者の問題解決において、短時間の情報処理での思考の違いは、持っているはずのif-thenルールを導出できるかできないかにあった。ACT理論はコンピュータシミュレーションモデルとして実装され、記憶、認知技能の獲得、問題解決などの現象を説明できる。ACTモデルでは、熟達者は、宣言的知識と手続き的知識が刺激の繰り返しで強化され、記憶が呼び出されやすくなっているといえる。以上のことから、初心者が熟達化に向かう手がかりとして、ネットワーク構造形成を促進させることや、高次の中心概念の教授の工夫がある。さらにif-thenルールと高次の概念との関連付けを強化することが重要となることが考えられた。情報処理モデル以外の、人間の認知の全体像から熟達化の手がかりを探ることは、今後の課題である。