著者
上村 朋子 本田 多美枝
出版者
日本赤十字九州国際看護大学
雑誌
日本赤十字九州国際看護大学intramural research report (ISSN:13478877)
巻号頁・発行日
no.3, pp.194-207, 2004

本稿では、「概念分析」の手法について概観し、それぞれの手法が生み出されてきた背景について論じた。「概念分析」は1960年代の看護理論の開発に伴い、その構成ブロックである「概念」を明らかにする必要性から、欧米を中心に探究が進められているものである。看護の分野で使用されている「概念分析」の手法は、高校生の概念分析スキルの向上を意図して導かれたウイルソンの方法から展開している。その主なものは、システマテイックな方法として評価され、先行研究において最も採用されているウォーカーとアーヴァントの方法、また時間や状況による概念の変化に着目したロジャーズの革新的方法、実践現場で概念がどのような意味で使用されているのかを重視したバイブリッド・モデル、さらには、いくつかの概念を多面的に分析する同時的概念分析などである。「概念分析」は、これまで曖昧に使用されてきた「概念」を明確にすることを通して、看護の現象に迫る方法を提示している。それぞれの手法の活用にあたっては、分析の目的に適した手法を選択して、クリティカルな思考を展開することが重要である。
著者
徳永 哲
出版者
日本赤十字九州国際看護大学
雑誌
日本赤十字九州国際看護大学intramural research report (ISSN:13478877)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.29-61, 2005-12-25

The Potato Famine took place between 1845 and 1849. The terrible potato disease, the 'Blight', came from England to Ireland in the autumn of 1845. The potato was damaged as badly in Britain as in Ireland that autumn, but there was no famine in Britain. 'Blight' caused a terrible disaster just in Ireland. The millions of landless and destitute people poor had few or no money and they could not have any other crop except the potato. More than a million people died, and about a million people left Ireland for foreign countries for the period of five years. I wrote a paper, Relief Measures and Epidemics in the Irish Great Famine (1845-49), in 2002, and presented it to the Intramural Research Report Vol. I. When I was writing the paper, I found a lot of problems which were beyond my understanding. Why were the poor people not relieved? Why could they eat any food except the potato? Weren't there any relief activities? A lot of problems welled up in my heart. I traveled around Ireland in 2004 to solve the problems. I went to Connemara District by bus, and looked at the beautiful mountains and lakes. I was very much fascinated by them, but at the same time I felt sad. I imagined that the poor Irish people evicted from the landlord were wandering on the rocky mountains, and starved to death. The beautiful mountains I saw must have seemed to the poor Irish people to be the desperate ground. I want to make it clear in this paper how Irish people lived and died in workhouses, fever hospitals and their cottages, and what kind of disease they died of."アイルランド大飢餓(1845-49年)の救済策と疫病"(2002)を基に再構成、加筆したもの
著者
荒木 正見
出版者
日本赤十字九州国際看護大学
雑誌
日本赤十字九州国際看護大学intramural research report (ISSN:13478877)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.1-11, 2005-03-01

この論文は、三浦綾子「夢幾夜」における「合唱の夢」(筆者による仮称)について、夢解釈の手法で解釈する試みである。この「合唱の夢」の構造を確認すると場面は二段階に進行する。一段階目は見知らぬ男から丁寧かつあつかましい手紙が来てやがて彼が登場するところまでである。第二段階目になると花火が上がって教会堂は万国旗で飾られている。すると合唱が天の一角から響く。はじめ「天に栄光、地に平和」といっていたのが、やがて「天に平和、地に平和」と変わり人々は和する。自分は「天国に行っても、平和を叫ばなければならないのか。」と落胆する。二つの段落は共時的に結びついている。特に音楽という、意識無意識の全体を象徴する場面では真の気持ちが語られる。そのように考えれば、見知らぬ男はイエス・キリストであり、さらに作者の他の作品などを参考にすれば、この夢はいつまでも平和が来ないと神に救いを求めるという潜在意識を意味しているといえる。
著者
石橋 通江
出版者
日本赤十字九州国際看護大学
雑誌
日本赤十字九州国際看護大学intramural research report (ISSN:13478877)
巻号頁・発行日
no.8, pp.15-22, 2010

本論では、著しい行動化を示すといわれる「境界例(ボーダーライン)」の診断により入院治療を要した成人男性を対象にして、退院後20 年を経過した時点でインタヴューを実施し、「自らのふり返り」を通して、アイデンティティ確立過程における「体験」構造を探求することを試みた。対象者は、幼少期から母親との離別、父親との死別、希薄な親戚関係から「見捨てられ体験」を繰り返し、それがトラウマになって感情の暴発や突然の卒倒などの行動化を起こしていた。入院体験をターニングポイントに、職場の同僚や妻の支えによって対象者のリジリエンスは高まり、仕事上の成功体験、守るべき家族の存在によって、こころの傷は癒され、自己の再構成を遂げていった。境界例患者の持つ病理は、看護役割を自覚しつつも患者の自己中心的な行動に否定的感情を抱き、看護者自身の傷つき体験につながる特徴をもつ。こうした悪循環を止めるためには、看護者自身の内面的洞察と自己理解を通じて、患者の生育歴の十分な分析に基づいて関わりの糸口を探り、自立生活を送れるよう自らが自覚する方向で支援する必要性が示唆された。
著者
濱田 維子 小林 益江 佐藤 珠美 江島 仁子
出版者
日本赤十字九州国際看護大学
雑誌
日本赤十字九州国際看護大学intramural research report (ISSN:13478877)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.10-16, 2006-12-22

ピアエデュケーションの特徴は、同世代の仲間意識の共感・支持による教育効果が高い点と、知識提供だけではなく個人の自信や自己評価を高めることを目標としている点にある。本学では、2004 年度より、大学生ピアエデュケーターの養成とともに、大学生による小学生への性教育活動を展開している。小学5 年次から6 年次にかけた2 年間の継続的な授業展開を通して、子どもたちへの質問紙や感想をもとに授業評価を行い、小学生へのピアアプローチの効果について明らかにした。その結果、(1)小学生と年齢差のある大学生とのコミュニケーションを重視した活動展開によって、両者の関係性を構築することができた。(2)複数の大学生が体験談を語るという共感的アプローチによって、授業内容の理解が促進された。(3)自己肯定感の向上を目的とした授業展開により「自分を好きだ」といえる子どもが増加した。以上のことより、小学生とのコミュニケーションを重視したプログラムと、年齢差のある対象者に対しても、関係性を重視したピアアプローチによる効果的な性教育が可能であることが示された。
著者
徳永 哲
出版者
日本赤十字九州国際看護大学
雑誌
日本赤十字九州国際看護大学intramural research report (ISSN:13478877)
巻号頁・発行日
no.9, pp.39-50, 2010

ナイチンゲールの看護への第一歩は1842年リーハーストに隣接するホロウェイ・ヴィレッジの貧しい病人の看病から踏み出された。その後、ソールズベリー施療病院を訪れるようになって、看護師になる願望を強く抱くようになった。しかし、当時の看護職は社会的に最下層の職業と見なされていた。ナイチンゲールの願望を知った両親は激しく反対し、彼女の行く手を遮った。ナイチンゲールは失望し、自殺を考えるようになった。そうした苦悶が続く日々の最中に、エンブリー・ハウスに2人のアメリカ人が滞在した。1人は博愛主義者ハウ博士であり、他の1人は世界最初の女医ブラックウェルであった。この2人との出会いはナイチンゲールに大きな勇気をもたらした。やがて彼女の強い意志と情熱は父ウィリアムの心を動かし、経済的援助を取り付けることができ、さらにハーバート夫妻がナイチンゲールの才能を高く評価し支援した。19世紀中頃の麻酔の普及と保健衛生への自覚の高まりが医療に新しい時代をもたらした。ナイチンゲールは時代の申し子となって、1854年に近代的な病院看護確立に向けて新たな一歩を踏み出した。
著者
川原 淳子 石橋 通江 坂本 洋子
出版者
日本赤十字九州国際看護大学
雑誌
日本赤十字九州国際看護大学intramural research report (ISSN:13478877)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.134-146, 2005-03-01

本研究の目的は、看護学生が認知的煩雑性によって対人認知に関する偏見的判断を促進させるか否かを検証することである。方法は、看護大学生103名を対象に、精神障害者に対する対人認知についての調査用紙を作成し実験を行なった。実験内容は、認知負荷強度3条件および、精神障害者ラベル提示有無の6つの実験群を設定し、それらの条件間で、認知する人物に対する印象、認知する人物の行動予測、認知する人物に対する自己の行動意図について測定した。その結果は、実験における認知負荷操作の有効性は確認できたものの、仮説を支持する結果は得られなかった。看護学生の対人認知傾向として、認知する対象人物が精神障害者である場合は認知的煩雑性によってその人物によりポジティブな印象形成が促進され、その人物のよりポジティブな行動予測が促進される傾向にあると考えられた。また、認知する対象人物の印象とその人物の行動予測、その人物に対する自己の行動意図には、他に異なる認知過程があることが示唆された。
著者
小林 裕美 乗越 千枝
出版者
日本赤十字九州国際看護大学
雑誌
日本赤十字九州国際看護大学intramural research report (ISSN:13478877)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.128-140, 2005-12-25
被引用文献数
3

訪問看護師の訪問看護を行うことによって生じる負担と精神的健康状態および首尾一貫感覚(SOC)との関係を明らかにする目的で、福岡県内の訪問看護ステーションに勤務する訪問看護師に調査を依頼し、有効回答を得た102名の結果を分析した。対象者は、全員女性で、40歳代の既婚者で子供がいる者が多かった。精神健康状態は良好とはいえなかったが、首尾一貫感覚(SOC)が高いほど、精神健康状態が良好になることが明らかとなった。訪問看護に伴う負担は、訪問看護師の精神健康状態に直接的に影響していなかった。その1つである「多くのことをひとりで判断すること」は、訪問看護の経験ではなく看護経験の長さに影響し、そのような訪問看護師に対する特別な配慮が必要であると考えられた。また訪問看護師は、SOCの3つの要素のうち、把握可能性、有意味感が高く、処理可能感が低いために、問題解決のための資源をあきらめず探しつづけ、正の方向に押し上げる力をもつといえる。従って、訪問看護師が問題解決できる資源を準備することが重要であることを示唆している。
著者
山本 捷子
出版者
日本赤十字九州国際看護大学
雑誌
日本赤十字九州国際看護大学intramural research report (ISSN:13478877)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.219-227, 2005-03-01

日本赤十字社は、120年余にわたり、もともと戦時救護ならびに天災時救護のための看護婦を養成してきた。戦前は日本が関係した戦争時に傷病兵や捕虜の救護を行ない、濃尾大地震や関東大震災においても災害救護を行なってきた。戦後は、日本赤十字社法の元に国内の災害ならびに国際赤十字の一員としてICRCや国際赤十字・赤新月社連盟の調整の元に、紛争地や被災地で救援活動あるいは保健衛生の向上に貢献している。その活動の歴史を振り返り、現在の日本赤十字看護教育における災害看護教育の課題を考察した。特に、災害に対する人々の関心の高まりや人権意識が強くなった現在、また複合災害が頻発する国際社会において活動する際に求められる看護実践能力や態度について、問題と解決の方策を探るべく私見を述べた。
著者
松尾 和枝 本田 多美枝 江島 仁子
出版者
日本赤十字九州国際看護大学
雑誌
日本赤十字九州国際看護大学intramural research report (ISSN:13478877)
巻号頁・発行日
no.7, pp.29-34, 2009

学生による授業評価に双方向性をもたせ、組織的・即時的に授業改善に活かすシステムづくりは、多くの大学で課題となっており、近年は、コンピュータの利用が注目されている。2002年から2007年の5年間を対象に、コンピュータによる授業評価システムに関する文献検討を行った。その結果、(1)授業評価システムのコンピュータ化は年々増加しているが、看護を含む保健医療分野での取り組みは報告がない、(2)システムはWeb上に作成することにより、組織的に実施することが可能となる、(3)媒体として携帯電話の利用は有用である、(4)授業評価システムは単独ではなく、多機能な学習支援システムの一部として統合できる可能性がある、(5)有用な授業評価システムにするには運用上の工夫が必要である、ことが明らかとなった。
著者
徳永 哲 江口 雅子
出版者
日本赤十字九州国際看護大学
雑誌
日本赤十字九州国際看護大学intramural research report (ISSN:13478877)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.72-85, 2004-02-28

本研究は学生の英語リスニング能力を向上させるのに、いかにTOEICのリスニング・セクションPart II及びIIIの問題が使われうるか考察するものである。応答問題のPart II及びIIIの問題を取り上げるのは、コミュニケーションの場における実践につながるリスニング能力を向上させることができ、自然なコミュニケーションにおける応答能力を強化することになると考えられるからである。しかし、リスニング能力に関してまだ未熟な段階にある学生に対してTOEICレベルの問題をさせてみても、リスニング能力が向上するのは非常に難しいと思われる。ではいかにすれば能力向上につなげることができるか。私たち徳永と江口は共同してその方法を研究し、さらに学生に情報提供者になってもらってデータをとって研究を実践した。その研究と実践および結果をここにまとめた。データの対象は2年生のセミナー・グループから成る11名の学生である。データは、リスニング・スキルに関するセルフ・リポート(授業による、学生の進度状況)から成る。授業はリスニング能力向上の為の方法として、3つの活動を取り入れた。1) Warm-up Activity 2) Listening Activity 3) Check-up Activityである。Warm-up Activityでは、事前に学生にヒントを与えた。Listening Activityでは、ディクテーションによりPart II及びIIIの質問文を書きとらせてから、問題のリスニングに集中した。Check-up Activityでは、学生の答えを正し、リスニング能力をチェックした。データとして、週1回の授業で13回分のリスニング・スコアを集積した。冬休みが終わってから、学生にアンケートに答えてもらった。アンケートは、日頃の英語との取り組み方と冬休みのリスニングの宿題との取り組み方に関するものである。アンケートから得たデータによると学生がリスニングに費やした時間はさまざまだった。1月中旬に、再び、学生に同じ練習問題を解いてもらった。受講生の内、5名の学生が、10%から20%の範囲内で、正解率を上げた。5名の中で最も正解率が高かった学生は、70%以上の正解率だった。その学生は冬休みの間、毎日、宿題として課したTOEIC Part II及びIIIの応答問題を長い間、聞いていたことがわかった。我々は練習問題と学生に課した宿題からいい結果を得た。又、長い間、応答問題を聞き続けた結果、一つ一つの単語を聞き取るレベルを超えて、対話全体を聞き取れるレベルになり、リスニング能力が伸びたこともわかった。
著者
坂本 洋子 森本 淳子 藤野 ユリ子
出版者
日本赤十字九州国際看護大学
雑誌
日本赤十字九州国際看護大学intramural research report (ISSN:13478877)
巻号頁・発行日
no.4, pp.160-170, 2005

集中内観法の有効性に関する事例研究は多く見られるが、集団的に調査をした研究は非常に少なく思われる。そこで15ケ月間にM内観研修所を訪れた内観研修参加者のうち研究協力に同意の得られた265名を対象に調査研究を行った。研究の主たる目的は、参加者の参加動機、内観法実施の前後における感情や意識の変化の状況、内観過程中の辛かった時期やその時の感情や意識、気持の変化が現れたときの状況などを検討し、自己変容の心理的要因を明らかにすることにある。結果として、内観参加者は男女ほぼ同率、各年代による参加に大差はないが、やや20代女性が多く、60歳以上の参加は非常に少なかった。内観過程おいて、心理的身体的苦痛は90.2%の人にあり、2日目頃から起こり3日目がそのピークとなる。苦痛は、雑念が浮かんで内観の深まらない辛さが最も多く、他に内観実施に対する疑問、抵抗,被拘禁感、逃げ出したい気持、内観の進展に伴って起こる自分の醜さ、情けなさを知る辛さ等があった。しかし耐えて続けて実施することにより、後期には84.2%の人に心の変化が現れている。気持の安らぎ、自己覚知と他者理解、ものの見方、見え方の変化が現れ、終了後多くが、達成・成就感、清明感、自己肯定を得ることができていた。
著者
坂本 洋子 藤野 ユリ子 大塚 邦子 石橋 通江 森本 淳子
出版者
日本赤十字九州国際看護大学
雑誌
日本赤十字九州国際看護大学intramural research report (ISSN:13478877)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.1-9, 2006-12-22

人間関係論演習の一環として看護大学2 年生の希望者を対象に、構成的グループ・エンカウンターを4年間実施した。その結果、参加前後の気持ちや自己イメージの変化は、いずれも肯定的に変化していた。またオープナー・スケールも肯定的に有意に変化していたため、相手をリラックスさせ自己開示を促す能力が向上していることが示唆された。また、実施後3 ヶ月、1 年後にフォローアップ・アンケートを実施した結果、自己理解や他者理解の深まり、新しい人間関係の形成、自己課題の発見など実施直後と同様の結果が得られ効果の持続が示唆された。また、グループ体験が臨地実習やグループワークに活かされているという結果も得られた。今後の課題として、対象が多くなった場合、抵抗を感じる学生やエクササイズを消化すればよいと感じる学生が出てくることが考えられるため、エクササイズの工夫や適正なファシリテーターの指導方法の検討が必要である。
著者
中村 光江 下山 節子 阿部 オリエ
出版者
日本赤十字九州国際看護大学
雑誌
日本赤十字九州国際看護大学intramural research report (ISSN:13478877)
巻号頁・発行日
no.5, pp.71-77, 2006

ストラウスとコービンは、慢性疾患を持つ人々に関する数多くの事例を基に「慢性疾患の病みの軌跡」という概念モデルを提示した。慢性の病いを持つ人間の反応を一つの「行路」と捉え、病気や慢性状況の行路を「軌跡」とした。この概念枠組みは、慢性の病気を持って生きることに対しての洞察や知識を提供するため、多くの看護実践・教育・研究・政策決定への活用が期待される。そのため、その発展の経緯を理解し、どの程度検証され、有用性や信頼性が確認されているかを明確にすることを目的に、文献研究を実施中である。今回、第一報として国内文献を検討した結果を報告する。「病みの軌跡」をキーワードとして収集した24 件の文献中、解説11 件、学会抄録7件、研究論文・報告6 件であった。比較的新しい枠組みとして活用され始めた段階にあり、大半は看護実践の事例検討において対象者理解や看護の振り返りの視点として使用されていた。「局面」等の下位概念はあまり使用されておらず、軌跡の枠組みを哲学的基盤や理論的前提とするにとどまっていた。国内文献では検証はなされておらず、モデルの発展には至っていないと考えられた。
著者
下山 節子 水町 淑美 平川 オリエ 田中 利恵
出版者
日本赤十字九州国際看護大学
雑誌
日本赤十字九州国際看護大学intramural research report (ISSN:13478877)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.159-167, 2005-03-01

腹膜透析および血液透析者の家族が抱える健康問題を比較し、透析者家族のQOL向上を目指した看護援助の課題を明らかにすることを目的として研究を行った。対象は、腹膜透析者の家族22名と血液透析者の家族43名。健康関連QOL尺度SF-36日本語版1.2による質問紙調査を実施した。調査期間は、2002年3月(腹膜透析者の家族)と2003年9月(血液透析者の家族)であった。腹膜透析の家族と血液透析者の家族のQOLを比較した結果、腹膜透析者の家族は、精神的負担感が強いことが明らかとなった。特に、精神的健康感が低かったのは、腹膜透析者の家族の年齢60歳以上、女性、家族自身が病気をもっている、透析歴5年未満の家族であった。週3回外来通院する血液透析とは異なり、腹膜透析が在宅療養であることも家族の精神的負担を強くしていると考えられる。腹膜透析者の家族がもつ精神的健康問題については、家族に対するカウンセリングや家庭訪問など積極的な介入の必要性が示唆された。
著者
古賀 節子
出版者
日本赤十字九州国際看護大学
雑誌
日本赤十字九州国際看護大学intramural research report (ISSN:13478877)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.84-104, 2005-12-25

この研究は、問題解決場面における、熟達者と初心者の思考の相違を明らかにすることを目的とし、看護師と看護学生を対象に、「生命の危機状態を想定したビデオ」を用いて、情報処理的アプローチによるビデオ映像の再生実験を行った。実験結果は、1.記憶再生では、初心者と熟達者が再生した内容に差はなかった。ただし、細部の記憶では初心者のほうが熟達者より誤想起した者が多かった。2.「生命の危機状態」の問題解決場面のif-thenルール導出は、初心者より熟達者の方が多かった。ただし、初心者もif条件部分の導出は出来ている人は多く、then行為部分の導出に差があった。3.問題解決において用いられた知識の表象は、情報としての知識は、初心者と熟達者でほぼ同じであったが、知識間の関係性に違いがみられた。熟達者では、初心者よりネットワーク化されており、高次の中心概念があった。初心者と熟達者の問題解決において、短時間の情報処理での思考の違いは、持っているはずのif-thenルールを導出できるかできないかにあった。ACT理論はコンピュータシミュレーションモデルとして実装され、記憶、認知技能の獲得、問題解決などの現象を説明できる。ACTモデルでは、熟達者は、宣言的知識と手続き的知識が刺激の繰り返しで強化され、記憶が呼び出されやすくなっているといえる。以上のことから、初心者が熟達化に向かう手がかりとして、ネットワーク構造形成を促進させることや、高次の中心概念の教授の工夫がある。さらにif-thenルールと高次の概念との関連付けを強化することが重要となることが考えられた。情報処理モデル以外の、人間の認知の全体像から熟達化の手がかりを探ることは、今後の課題である。