著者
吉原 愛
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.268-271, 2018 (Released:2019-02-15)
参考文献数
12

妊娠が成立すると,胎児の発達,特に脳神経系の発達に甲状腺ホルモンが必要となることが知られている。脳神経系の発生は妊娠5~6週より始まり,胎児甲状腺が完成するまでの間は,母体の甲状腺ホルモンに依存することとなる。母体のT4は胎盤を通過し,妊娠前よりLevothyroxine(LT4)よる甲状腺ホルモン補充療法を受けていた例(甲状腺手術後など)では,甲状腺ホルモンの需要が増すため,非妊娠時の補充量の30~50%程度の増量が必要になることが多い。妊娠中の甲状腺機能評価の際には,基準値が非妊娠時と異なり,妊娠週数に応じて変化することに留意する必要がある。したがって,妊娠時の甲状腺機能評価にはTSH,FT3,FT4値を用い,甲状腺機能低下症に対する補充療法ではTSHを指標,甲状腺機能亢進症の抑制療法ではTSHおよびFT4値を指標に薬剤調整を行う。近年,FT3,FT4が正常でTSHが高値である潜在性甲状腺機能低下症の場合でも流早産との関連性が指摘された。今後さらなるエビデンスの蓄積が必要である。また,内分泌外科医が遭遇する妊娠女性にバセドウ病術後患者が想定され,TSH受容体抗体(TRAb)高値による新生児バセドウ病への留意が必要な場合がある。当院で行っている甲状腺機能管理を紹介する。