- 著者
-
吉岡 亮太
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 日本地理学会発表要旨集 2010年度日本地理学会春季学術大会
- 巻号頁・発行日
- pp.209, 2010 (Released:2010-06-10)
1.はじめに
神社の全国的な分布を明らかにしようとする研究は、長い歴史を有するにもかかわらず、今も未解明な点を多く残している。特に、全国で12万社以上ともいわれる神社を、その系統別に整理し、その分布を複合的に検討し、分布の地域的特質とその要因を明らかにした研究はあまり見られない。本研究では、デジタルデータである「平成『祭』データ」の特性を生かして、このような課題を解明することを目的とする。
2.研究方法
「平成『祭』データ」は全国に鎮座する神社のうち約8万社についての基礎的な情報を掲載しており、全国的な検討をする際には極めて有用な資料である。このデータの文字検索機能を用いて分析し、神社をその名称によって系統的に整理し神社群を設定した。そのうち神社数が20社以上という基準を設定すると、197の神社群を抽出することができた。特に、突出して多いのが1位の「八幡宮」群であり、以下29位の「氷川神社」群までは急速に減少していき、それ以下は横ばい傾向を示す。そこで、29位までを主要神社群とみなすこととし、それらについて分布を検討した。
3.各神社群の分布による東西格差
総神社数の6割を占める主要神社群29社の分布は、「越前―美濃―尾張」ラインを境として大きく異なる。すなわち、それ以東においては全体として29社の占める比率が高く、それ以西では比率の高い地域が一部塊状にあらわれ、神社分布においても「東北日本」「西南日本」という地域差が認められる。
次に、主要神社群を構成する各神社群の分布の特質を地図化を通して明らかにした。その結果、神社群の中には全国的に鎮座が見られるものとそうでないものとに二分でき、主要な神社群は前者に属する。そこで前者の分布特質に対して5つの型が指摘できた。第一は、「八幡宮」群や「賀茂神社」群、「厳島神社」群がそれに該当するが、各国にほぼ一定数で鎮座が見られる型であり「分散型」と呼称できる。第二は、「白山神社」群や「諏訪神社」群、「鹿島神社」群が該当するが、本社を中心とする地域への集中が顕著であり圏構造が認められる「偏在型」である。第三は、「天満宮」群や「日吉神社」群などがそれに該当するが、本社をおく地域を中心にした圏構造は見られる一方で、それ以外の地域にも一定数の神社が存在する型であり、第一と第二の中間ということで「中間型」と呼称することができる。次に、第四は、「熊野神社」群や「稲荷神社」群、「愛宕神社」群が該当するが、本社の存在する地域から離れた遠隔地にむしろ神社が集中する「乖離型」である。最後に第五は、「神明宮」群がそれに該当するが、第三と第四の両面を併せ持つ型であり、仮に「特殊型」と称しておく。
このような各神社群の分布パターンと、本社の位置との関係を整理すると、「東北日本」に本社をおく神社全てと、「越前―美濃―尾張」ラインにごく近い伊勢に本社をおく神明宮は、共通して「偏在型」という特徴を有しており、「越前―美濃―尾張」ラインが分布上の境界となっている「西南日本」への鎮座が極めて少ない神社であった。一方で、「西南日本」に本社をおく神社は、「分散型」もしくは「中間型」を示し、「越前―美濃―尾張」ラインを越え「東北日本」へと等しく分布している傾向が見られる。また、「乖離形」を示した神社も「西南日本」に本社を持つ神社群であるが、4社中貴船神社群をのぞく稲荷神社群・熊野神社群・愛宕神社群の3社が「東北日本」内の「東国」への集中傾向を示しており、「東北日本」「西南日本」の境界がより東に傾いてあらわれていた。
このように、「東北日本」側の神社にとって「越前―美濃―尾張」ラインがその境界として機能していた一方で、「西南日本」側に本社を持つ神社には、「越前―美濃―尾張」ラインが境界として機能しておらず、一貫して「東北日本」への伝播・勧請の影響が強くあらわれていた。「東北日本」と「西南日本」にあらわれる地域差は、それぞれに本社をおくこうした神社分布パターンの差異によって形成されたと考えられる。
4.今後の課題
以上、神社の分布について全体の約6割を占める主要神社群の分布検討を通して分布上の特質を、全体のみならず主要神社群の類型化の結果を通して明らかにした。ただ、国を基域とした全国レベルの検討にとどまっており、また予想された以上に多い5つもの類型があらわれる結果となった。したがって、今後よりミクロな分析により、このような分布パターンが現出した要因についても明らかにできると考える。