著者
吉川 友規
出版者
徳島文理大学
雑誌
徳島文理大学研究紀要 (ISSN:02869829)
巻号頁・発行日
vol.98, pp.89-97, 2019-09-30 (Released:2021-01-09)
参考文献数
1

本論文は,被告人がスマートフォンのOSを改変し,ネットオークションを通じて販売したという事案に関して,商標権侵害罪(商標法78条)の成立が肯定されるかが争われた千葉地判平成29年5月18日判例時報2365号118頁を契機とした事例研究である。 本論文では,まず,Ⅱにおいて民事の商標権侵害概念について確認した上で,次に,Ⅲ.1.において民事の判例が言及し,本判決も用いている「実質的違法性」(の欠如)の概念を刑事の犯罪論ではどのように扱うべきかを述べた。そして,Ⅲ.2.において商標権侵害罪の構成要件をどのように解釈するべきかについて,商標権侵害罪の罪質を危険犯として理解するべきか,侵害犯として理解するべきかという点(Ⅲ.2.⑴)と,商標権侵害罪の実行行為をどのように理解し,スマートフォンのOSを改変して販売する本件のような事例においては,その実行行為をどのような基準によって認定するべきであるかという点(Ⅲ.2.⑵,⑶)からそれぞれ検討を行い,最終的に,本件事例における商標権侵害罪の成否について明らかにした。最後に,Ⅳにおいて,本判決の妥当性・意義について言及した。