著者
川口 慎憲 筒井 紗也子 吉川 晶子 田邉 豊
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.549-552, 2015

今回われわれは,重篤な開胸術後痛の患者に対しリドカイン点滴静注が有効であった症例を経験したので報告する.患者は79歳の女性で,右肺がんの診断で右肺下葉切除を受けた.その際に第6肋骨と肋間神経を切断した.術後20日目頃より痛みが増強し,非ステロイド性抗炎症薬,プレガバリン内服で改善が認められなかったため術後30日目に当院ペインクリニック外来を受診した.来院時の痛みの強さはnumerical rating scale(NRS)8/10で,手術創に沿った部位,とくに胸骨周囲の痛みが強かった.肋間神経ブロックで痛みは完全に消失したが,数時間で効果は消失した.内服薬を処方し肋間神経ブロックを数回行ったが痛みの改善効果は認めなかった.術後52日目よりリドカイン100 mgの点滴静注を開始したところNRSは3まで改善し,その効果は2日後まで持続した.再度同量のリドカインを投与したところ同様の効果を認めたため,本治療を継続した.60日目より硬膜外ブロックを併用したところ痛みはさらに改善し,90日目には痛みが完全に消失した.難治な開胸術後痛に対し,リドカイン点滴静注が有効であった症例を経験した.治療抵抗性の開胸術後痛に対して,リドカイン点滴静注を検討してもよいと考える.
著者
井福 正貴 井関 雅子 吉川 晶子 森田 善仁 小松 修治 山口 敬介 稲田 英一
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.9-14, 2011 (Released:2011-02-04)
参考文献数
14
被引用文献数
1

複合性局所疼痛症候群(CRPS)に有効な治療法は確立されておらず,難治性の慢性痛となることが少なくない.上肢のCRPSでは痛みに加えて日常生活に支障をきたすことも多い.そこで,当科で過去10年間に,上肢のCRPSで治療を受けた44名に,痛みの状態と,これまでの治療に対する満足度を知るために,アンケート調査を実施した.44名のうち22名(50%)から回答を得た.痛みが寛解していたのは2名だけであり,多くは発症から長期間経過した調査時点でも痛みが持続していた.患者を治療満足群(満足群)と治療不満足群(不満足群)に分けて検討した.満足群と不満足群で,痛みや痛みによる身体的な生活の質(QOL)に違いはなかったが,満足群に比べ,不満足群は,年齢が有意に高く,SF-36の結果で精神的健康度が低値であった.難治性の痛みでは,われわれが実施可能な治療に対する満足度を高めることは重要であるが,高齢者の上肢のCRPSでは,治療の満足度が低く,高齢者に適した治療法に加え,支持的・精神的アプローチの必要性が示唆された.